「タク放題」の延長・継続を決断
実証実験の継続を決意
月額定額タクシー乗り放題サービス『タク放題』は、7月1日から12月30日までの期間限定の実証実験としてスタートした。本日(10月23日)時点での59日の営業日数で、総利用回数2580回、実在のサービス利用会員数48名、借上げしたタクシー車両の時間数は1200時間を超える。
残された2カ月で、とりわけ会員数をどれだけ増やせるかが問われるが、それでも採算ベースに乗せるのは不可能と思われる。だが、このサービスを延長、継続するか否かを利用者への責任上、現時点において判断をせねばならないと思う。そして、静岡TaaS内部での議論の結果、「タク放題」を来年の6月まで延長して継続することを決定した。
何より、現在の利用者のサービスに対する高い評価と継続して欲しいという強い要望に応えたいという思いと、未だに利用者の獲得につながる施策が充分に実験できていないことが理由だ。前回のコラムでも述べたが、こうした新しいサービスを立ち上げる実証実験は、少なくとも1年間の試行錯誤の試みが必要であり、そのくらいの時間をかけないと本当の意味での成功も失敗も分からないと思うからである。仮に失敗するにしても、次のチャレンジャーの教訓となるような失敗でなければ意味がない。様々な実験のチャレンジをした結果の失敗は教訓になるが、中途半端な形での撤退は参考にならない。
地方における高齢者の移動の問題は、日本の普遍的な課題のひとつでもあり、とりわけ免許返納をせざるを得ない高齢者や一人暮らしの移動困難者にとっては切実な問題である。是非タクシーを使っての生活圏内の近距離移動を経済的負担の無い形で実現する「タク放題」のサービスを、継続的に実現する道を切り開きたいと思う。
しずおかMaaSの技術会員
2019年5月27日に発足した「しずおかMaaS」(静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト)は過去三度の実証実験を経て、今年度の実証実験を来年1月中旬から3月中旬まで、四度目の実証実験が企画されている。
昨年、静岡TaaSは「しずおかMaaS」の技術会員としてそのメンバーに加わった。MaaSは多様なモビリティを統合するプラットフォームを目指すものだが、静岡TaaSでは、その一翼であり、かつ最も重要と思われるタクシーというラストワンマイルを担うプラットフォームをTaaS( Taxi as a Service)という形で担いたい趣旨で参加させてもらった。
昨年度の「しずおかMaaS」の実証実験は、静岡市駿河区と清水区の岡・船越地区で道路運送法21条に基づくオンデマンド乗合として行なった。それぞれの地区で2台のタクシー車両を借上げ、仮想停留所間の乗車のほか、ドア・ツー・ドアの乗車など、多様なサービスを本年1月から3月にかけて40日間行った。静岡TaaSは、この実証実験の電話受付や配車サービスの業務を受託し、「タク放題」の立ち上げに向けての大きな経験と教訓を得た。特に、残念ながらサービス利用のための登録会員が少なく、利用回数も期待したほどではなく、乗合となったケースも少なかったという厳しい現実を、どう教訓化するかが迫られた。
やはり会員獲得が課題
「しずおかMaaS」の実証実験においても、やはり課題は会員の獲得であり、そのための広報と集客である。とりわけ過去の「しずおかMaaS」では実証実験の期間が正味二カ月であり、このサービスの認知が進んだころにはサービスが終わっていた、ということが多かった。こうした実証実験が実際の成果を上げるためには、少なくとも半年、出来れば1年の期間で実施する必要性を改めて強く感じる。
また、広報という点でも、「しずおかMaaS」という半ば公的な機関が推進するので、民間の団体では不可能な公的なルートを大いに活用して頂きたい。静岡市などが「広報 しずおか『静岡気分』」などの広報紙のほか、社会福祉協議会や町内会などの公的ルート、生涯学習センターなどの公的な施設を活用した積極的な説明会などを実施して頂けたらと思う。「しずおかMaaS」の幹事団体には、静岡鉄道、静岡市、タクシー協会、富士山清水港クルーズ、静岡商工会議所、社会福祉協議会、するが観光企画局、静岡銀行など錚々たるメンバーが揃っているので、様々な形で協力を頂けたらと思う。
会員獲得のための地上戦へ
前回のコラムで『空中戦から地上戦へ』と書き、少しずつコラムに書いたチャレンジを始めている。この間の街頭やスーパーでのチラシ配りで目立った活躍をされていたUさんに、その人脈と営業力を活用しての病院、医院、薬局、福祉施設、公共施設などのチラシ配布スタンドへの配置を業務委託でお願いしていたが、次々と結果を出してもらい、私もお礼の同行をする機会が増えてきた。とりわけ、静岡市内のケアマネージャーを統括する組織との接点ができ、その賛助会員となれたことから、ケアマネージャーへの組織的なアプローチの道が開けた。
現在の「タク放題」は介護タクシーではない。しかし、介助がまだ必要ではないが、移動に困難を抱えている人は沢山いる。デイサービスなども、送迎サービスが無いと通えない人が多いと聞く。
こうした需要には、相乗りのサービスが有効ではないだろうか?「タク放題」のサービスも移動需要の実態に合わせてそのサービスを多様化、深化させていかねばならないし、それを、ITやAIなどを活用して、実現していかねばならないと思う。
また課題となっている「タク放題」会員受付サービスの常設店についても、葵区西草深の「サワヤカツアー」と葵区丸山町の「ドコモショップ静岡安東店」に続き、札の辻という静岡市の中心繁華街「おまち」にある「補聴器のサガワ」との業務委託契約が実現した。この呉服町の中心部にある対面店舗は、会員獲得の大きな力になると期待している。
共同配車の進展
実は、既に9月21日より、静岡TaaS沓谷配車センターで、静岡平和タクシーと駿河交通の2社の共同配車が実現している。相互配車という形で、顧客に近いタクシー車両を顧客の了解のもとに配車をして、顧客と乗務員の双方に喜ばれている。
また、他の共同配車参加会社の受入促進のために24時間の配車体制を取っているが、夜間については可能な限りIVRという電話をコンピュータで受けて自動配車をする仕組みを導入すると共に、スマホによる配車受付を推進するなど、配車センターの夜間受付体制の自動化を整備して行きたい。この仕組みは、夜間の人材確保とコストの面で避けて通れない道だと思われる。幸い、静岡TaaSの正会員であるシステムオリジンは、各地でこの面での実績と経験を持っているので、ステップを踏みながら時代の流れであるアプリとIVRによる自動配車にチャレンジをして行きたい。
タクシー業界は、電話受付、配車、運行管理、労務管理、労働時間管理、給与体系、乗務員不足、収益モデルなど、あらゆる面で転換期に来ている。これらの転換に対応する変革は、確かに混乱を生むが、それを恐れていると「ゆでガエル」になりかねない。困難な道ではあるが、前に進まねば、と思う。
(2022年10月23日)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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