「日本版ライドシェア」はタクシー業界を救う?!
経済同友会の「日本版ライドシェア」
最近の極端な乗務員不足をきっかけとしたライドシェア解禁論議がすさまじい。
菅前首相や河野デジタル大臣もライドシェアに前向きな姿勢のようだ。一方で、全タク連やハイタク労働団体がライドシェア解禁絶対阻止に向けて対策を強めているという。
小泉進次郎元環境大臣は「タクシーVSライドシェアの二項対立は間違い」とネット動画番組で発言している。私もそう思う。
先号の『タクシージャパン』441号で紹介された、2020年1月の経済同友会の提言「日本版ライドシェア」を改めて読んでみた。
表題が「日本版ライドシェア」とセンセーショナルなこともあり、タクシー業界の即座の反発を買って、殆ど議論の俎上にも乗らなかったらしい。
そして、2020年の1月頃から急速に悪化したコロナ禍のために、経済同友会の問題意識の出発点であった「タクシーの供給不足への速やかな対応」の必要性が急速に薄れてしまった。
いま改めてコロナ禍が癒え、インバウンド客が復活し、さらにコロナの中で2割近くの乗務員が減ってしまっている危機の事態に、この「日本版ライドシェア」が注目されつつある。
実はこの経済同友会の「日本版ライドシェア」提言の趣旨は、ライドシェアの導入というよりも「事業者協力型自家用有償運送」をタクシーサイドの立場から規制緩和し、上手く活用したらどうか、というものだ。特にウーバーなどの海外のライドシェアの、雇用面、安心・安全面の問題点を挙げて、その問題点を「日本版ライドシェア」ではタクシー事業者主導でどのように解消するか、というかなりタクシー業界よりの現実的な提案になっている。
敢えてここで引用させてもらうと、
【目的】
・都心や地方都市におけるタクシーの供給不足への速やかな対応
・リアルデータの収集、データに基づいた交通政策論議の促進
・働き方の多様化を踏まえた副業・兼業機会の提供
【概要】
・配車アプリの利用を前提に、以下のいずれかの場合にタクシー事業者による第一種運転免許保有者および自家用車の活用を認める。
ケース1:一時的にタクシー需要が増大する通勤時間帯・悪天候など
ケース2:恒常的にタクシー供給が不足する地域において、需給バランスを崩さない範囲に限定
【安心・安全】
・タクシー事業者の運行管理による安心・安全の担保
・情報通信技術を用いた相互評価制度や顔認証制度等の導入
以上
ライドシェアという言葉のイメージに、つい囚われてしまうが、内容を見るとタクシー業界の課題の大きな解決策のひとつになると思われる。
静岡TaaSの乗務員不足の解決案は?
私が代表理事を務める静岡TaaSでは、タクシー業界の生産性をあげるために、実車時間率と実働時間率を向上させる仕組みの構築を目指してきた。実車時間率の向上は、地域全体最適マッチングを目指し、共同化による効率配車、そして実働時間率の向上のためには乗務員の増大と需要に合わせた交番表のフレキシブル化を目指している。
どれも難しい課題で実現出来ていないが、乗務員の増大についてはワークシエアリングに向いているタクシー業の業態を活かして副業ドライバープラットフォームを目指している。しかし、大きなネックは二種免許の壁であり、フルタイムで稼げない副業ドライバーにタクシー会社が多額な養成費用をかけるには壁があることである。
その点、タクシー会社が管理する自家用車に一種免許保持者が乗務できるこの仕組みは極めて有効である。こうなると、自家用車の「ライドシェア」というより、自家用車と一種免許の副業ドライバーを活用したタクシー事業の市場の拡大と労働力供給市場の拡大につながる施策と思われる。
現在の乗務員不足に対して、時間に縛られないフレキシブルで完全成果給のドライバーを確保できるので、タクシー業界にとっては、やり方によって新たな成長の仕組みを創造できる可能性がある。
地域全体最適プラットフォームの生成
とは言え、地方の個々のタクシー会社がIT技術の活用や導入を含めてこうした仕組みを作るのには荷が重い。そこで手前味噌だが、地域全体の移動最適マッチングを実現するプラットフォームが必要になることから、出来れば全国的なプラットフォーマーではなく(連携するのは構わないが)、地域の地元タクシー会社を含めた地元地域のステークホルダーでTaaSプラットフォームを形成し、より上位概念のMaaSを構成していくという構造が必要なのではないかと思う。そして、そうした地域全体の移動を担うプラットフォームが地域の都市計画と連携し、その一端を担うことが必要ではないかと思う。
「タク放題」の1年間の実証実験の教訓
昨年の7月から今年の6月まで行った「タク放題」の教訓からも、こうした事業者協力型自家用有償運送を含む地域全体を網羅するプラットフォームの必要性を強く感じる。
移動に困る地域住民は確実に存在し、また低費用の月極め移動サービスは、高齢化や免許返納者の増大によって増々必要性が増すと思われる。しかし、一方で現在のタクシー事業における移動サービス供給の仕組みでは数の面、費用の面で持続的サービスとしては不可能である。
行政からの補助があればサービスそのものは可能だとしても、やはり民間のサービスとして採算が合う仕組みを、IT技術を駆使して作り上げたいと思う。その意味で、この経済同友会の提言した「日本版ライドシェア」を、地域住民とタクシー業界を救うものとして現実化するためのチャレンジを続けたい。
とにもかくにも、まずプラットフォームとしてある規模をもたなければ、地域全体最適マッチングも覚束ない。また、配車アプリや置き型アプリ、高齢者でも簡単にタクシーを呼べるLINEアプリなどの普及による需要の拡大、クルーズ船のインバウンド客へのタクシー業界への誘導など、まだまだやらねばならないことが沢山あるが、力が続く限り、挑戦を続けて行きたい。
掲載した図表は、まだ叩き台レベルではあるが、静岡TaaSとしてタクシー業界が自家用有償旅客運送を上手く活用するための構想図である。参考にして頂けたら幸いである。
(2023年9月21日)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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