タクシージャパン 掲載コラム

いま何やってるの?

役に立てることは何?

ときどき、「いま、何をやってるの?」とお客様に聞かれことがある。
 2年前の3月にシステムオリジンの社長を退任して以来、ちゃんとしたお別れの挨拶もできずに御無沙汰をしているお客様に久しぶりにお会いすると、なかば訝しげにこの質問を投げかけられる。
 その度に、口ごもりながら「タクシー業界の周辺でウロウロしています」とお答えするのだが、そろそろ「ウロウロ」の内容を前向きにお話できるようにならねばいけないと思う。
 第3次創業を経たシステムオリジンは、第4次創業を目指して順調に前進していると思う。
 もちろんタクシー業界が歴史的な転換点に置かれている以上、システムオリジンもタクシー専門のソフトハウスとして、その歴史的な転換点に立ち向かわねばならず、大きな試練を迎えることになるだろう。しかし、その試練自体が、あるいはその試練こそが、これから30年のシステムオリジンを担う経営陣を育てるであろうというのが第3次創業の仮説であった。従って、私の役割はそこには無い。
 では、どこで「ウロウロ」しようか?と考えた。今の時代、60代後半でも楽隠居という訳にはいかない。そこで、自分のできそうなことで「タクシー業界のお役にたてそうなことは何か?」と考えた結果、タクシー業界が困っている「乗務員不足」を少しでも解決できないか?そしてもうひとつ、自動運転の時代が来ても必要とされるサービスの一分野を創造することのお手伝いはできないか?と考えた。そして出来たらそのことが、自分の趣味趣向と楽しみに結びついたら、なお良いな!と、虫の良いことを考えた。

タクシーアシストとチームネクスト

 もちろん私の仕事として、システムオリジン時代の2008年から手掛けてきた「たくあしくん」運営会社の「タクシーアシスト」や、2012年から全国の先進的なタクシー事業者を「ベストプラクティス」として学ぶ泊りがけセミナー合宿「チームネクスト」の運営がある。しかし、「たくあしくん」は第2種旅行業を取得したインターネット・ポータルサイトの「タクシーサイト」に業務を移管し、より発展的な展開を準備しているし、またチームネクストの運営も、事務局担当の野田氏の企画力と業務執行能力に全面的に依存し、私の役目は実は殆ど無い…。

TSTiEとの出会い

昨年の5月、偶然に東京ハイヤー・タクシー協会がTSTiE(Tokyo Sightseeing Taxi in English)という、特区制度を活用した通訳ガイド乗務員の養成をしていることを知った。東京オリンピックに向けて、インバウンド対応の体制を、国や都などの行政の要望に応える形で2015年に作られたものだ。東京オリンピックが開催される2020年に向け、300名のTSTiE乗務員を養成するのが目標だが、まだ100名にも満たないらしい。
私は「これだ!」と思った。
 もともと「英語」への個人的趣向が強く(その割に英語力は無いのだが)、26歳からの3年間の静岡県清水でのタクシー乗務の際には、車内で英語の勉強に勤しんだ。お陰で英検2級までは獲得できたものの、初心者のレベルだ。タクシー乗務という仕事に英語の通訳ガイドが結び付くと、より付加価値を生むタクシー乗務員が誕生するのではないか、と考えた。そして何より、東タク協が、TSTiEという資格を作ってくれている。これを活用しない手は無いと思った。
 そこで昨年の5月のこのコラムで「TSTiEドライバーになろう!」と呼び掛け、自らもそれに挑戦しようと、あるタクシー事業者様に定時制乗務員として採用して頂き、TSTiEドライバーになるための一連の試験を受けさせてもらった。今年の3月にかけて、東京タクシーセンターの研修や試験、東京シティガイド検定、東京都地域通訳案内士の研修と修了試験などを経て、何とかTSTiEへの道を進んできたのだが、その中で、逆にこの分野での課題も見えて来た。

資格はあるが仕事が無い!

29年度の東京都地域限定通訳案内士(TSTiEドライバーの条件)の研修には、私も含めて40人ほどが参加しているが、すでにTSTiEの資格を過去に獲得している乗務員も含めた現場の声として、せっかく資格をとっても通訳ガイドの仕事が少なく、自分の能力を生かす場が無いという不満であった。その声をTSTiEの推進機関である東タク協の担当部署にお伝えし、見解をお聞きすると、資格制度は作ったが、ガイド業務の受注は基本的に各事業者に任されており、協会としての集客や斡旋はしないとのことだった。
 確かに東タク協の会員である各事業者のインバウンド観光への取り組みにはバラツキがあり、協会としての一元的な対応は難しいだろうとは思う。
 そうなると経営の体力とマンパワーのある大手事業者はまだしも、規模の小さな事業者ではガイド業務の集客は事実上不可能ということになる。そうであれば、我々がそうした集客、そして配車を、タクシー事業者をネットワーク化する中で少しでも実現できないか、と思うようになった。
 集客は法的に旅行会社の資格がいる。幸い、2000年に設立され、全国1600社の事業者会員がいるタクシーサイトが第2種旅行業者として登録しているので、可能性はある。そして、手配や予約を請負うランドオペレーターとして、タクシー事業者と乗務員を会員とする非営利の一般社団法人の設立を思いついた。
 さらに、このインバウンド観光と乗務員不足の課題を結び付けて、インバウンド需要にスポットで対応するインバウンド観光乗務員のネットワーク化を考え付いた。
もちろんタクシー・ハイヤー事業では乗務員の派遣は認められていないので、それぞれ各タクシー事業者の定時制乗務員などに登録してもらい、必要に応じてタクシー・ハイヤー事業者の指示に基づいて乗務してもらうことになる。
 そうしたインバウンド観光スポット乗務員の候補者として、ひとつは通訳ガイドの資格者に2種免許を取ってもらうこと、もうひとつは、まさしく私のケースであるが、過去にタクシー乗務員の経験者、一定の英語力のある方が、いわば「サブ・ジョブ」として、この需要に応えていくこと。さらに外国人で通訳ガイドの力のある方にインバウンド観光のスポット乗務員として就労してもらうこと。いずれも専任乗務員ではないが、新たに、たとえスポットではあれ乗務してくれる人を増やすことになり、インバウンド観光への対応と労働力の有効活用、車両稼働率の向上に役立つのではないかと考える。
 従って、「いま、何をやってるの?」という、最初の問いに答えるとしたら、「業界のインバウンド観光への仕組み作りを試行錯誤中です!」ということになる。
(2018年6月26日)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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