タクシー産業のDX・CX
DX・CXって何?
昨年ごろからDXという言葉を盛んに聞くようになった。元SMAPの稲垣吾郎さんのテレビCMで、DXを「デラックス」と連呼していたが、私も恥ずかしながらDXはてっきりデラックスのことだと思っていた時期があった。さすがに今では、DXが「デジタル・トランスフォーメーション」のことだと知るようになった。
ついでに、CXは「コーポレート・トランスフォーメーション」のことであり、現在の日本の企業レベルのみならず、社会改革のキーワードにもなっていることも知った。
このコラムでも何回か言及している、産業再生機構のCOO(最高執行責任者)や、2010年に経営破綻した日本航空の再建を主導した日本航空再生タスクフォースのメンバーなどを歴任した冨山和彦(現経営共創基盤会長)さんが、最近作『コーポレート・トランスフォーメーション』」の中で、DXはCXまで突き進まないと成功しない、との趣旨を述べているが、どうやらDXは「デラックス」ではもちろんないけれど、自分が思い浮かべた「デジタル化」あるいは「IT化」とも次元の違うことのようだ。
「トランスフォーメーション」とは「変革」という意味らしいが、ここ最近のDX化という言葉の盛んな流布は、政府、とりわけ経済産業省の危機感から来ていると思われる。
2018年9月に経産省がDXレポートを発表し、当時における日本のデジタル化の状態が存続するならば、2025年には企業や社会のデジタル化の遅れにより、日本経済が崖から転落するという「2025年の崖」を警告している。
しかし、2025年を待たずとも、このコロナショックにより、日本の、とりわけ司令塔であるはずの政府や行政のデジタル化の遅れによる、各種給付金・補助金支給のドタバタ劇は、システム関係者にとっても恥ずかしいものだった。が、逆に今回の事態は単なるデジタル化、IT化とDXとの違いを分かりやすく表しているような気がする。
DXは、単に業務のデジタル化ではなく、トランスフォーメーション、すなわち、意識や仕組みの大胆な変革を伴い、それなくしてIT技術の新しい段階、IoT,ビッグデータ、AIのデジタルの果実を、企業、行政、産業そして社会にも実装できないということを示した。菅政権がデジタル庁の新設とその推進を、河野氏の起用による行政改革とセットで進めようとする所以だとも思う。
タクシー産業のDX・CX
では、タクシー産業にとってのDXとは何だろうか?
タクシー産業においてはIT化、デジタル化が、地域差はあってもかなり進んでいるのではないか、と思う。都市部では運行管理のシステム化が進み、事業者によっては日報の自動化までも行われている。また、タクシーの配車業務では、GPSIAVMによる自動配車も導入されている状況だ。さらに配車アプリでは、利用者と車両の自動マッチングさえ実現している。デジタル化という点では、タクシーはかなりの優等生ではないかと思うのだが、しかし、デジタル・トランスフォーメーションという意味では大きな課題があるのではないだろうか。
むしろ、課題というよりもIoT、ビッグデータ、AIという新しいデジタル技術の発展を、タクシー産業が真の意味でDX化できれば、タクシー産業の積年の課題だといえる生産性の低さを解決できる可能性があるのではないか、と思う。
コロナ禍による需要の激減に苦しむ今のタクシー産業にとって、生産性向上云々は迂遠に感ずる話だとは思うが、しかし仮にコロナ禍が収束しても、タクシー産業の構造的課題として、生産性の低さ、それを大きな要因とする乗務員不足が終わることはない。
そこで、私なりに新しいIT技術、意識と仕組みの改革によるタクシー産業の時間当たりの生産性の向上を考えてみた。
Ⅰ.実車時間率の向上
① 需要予測による供給のコントロール
タクシー産業の生産性の低さは、時間的、地域的な需給のミスマッチが大きな原因だと思われる。時に需要に間に合わずに、機会損失、時に供給過剰で売り上げに結びつかない流し、ないしは待機。この無駄を高度なIT技術により、需要予測とそれに基づく供給のコントロールができないか?
② 運賃の弾力化による潜在需要の喚起
移動ニーズはあっても費用面で顕在化してない需要がかなりあるのではないか?それを顕在化する方法として行政とも連携した使い勝手の良い、ダイナミック運賃、さらに月決め運賃であるサブスクリプションモデルの活用
③ 地域の共同配車センターによる地域最適配車と各社の配車コストのダウン
Ⅱ.車両の実働時間率の向上
① 副業ドライバーの活用
タクシー車両は認可制なので、その車両台数は限られており、その実働時間は収益におおきく影響する。しかし、現実は乗務員不足により実働率が低い事業者が多く、コロナ禍が収束すれば構造的問題である乗務員不足に苦しむことになる。そこで、政府の働き方改革の一環である副業の推進政策を活用し、使い勝手の良い「サブジョブ・プラットフォーム」を立ち上げ、副業ドライバーをタクシー業界に供給する。労働基準法や道路運送法などにおける課題を、IT技術を活用することでクリアする。
Ⅲ.管理費のコストダウン
① 電話受け、配車業務のアウトソーシング
② 事務処理業務のアウトソーシング
Ⅳ.経営規模の大規模化
① 合併、協同組合、業務提携などによる経営規模の拡大
② データに基づく高度な経営への挑戦。
タクシー産業はローカル産業であり、また人の実際の移動を伴うリアルな産業でもある。デジタル化だけではどうにもならない領域ではあるが、一方でDXを活用し、意識と仕組みを改革することによって付加価値の高い産業に生まれかわることができると信じたい。
(2020年11月23日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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