
地域全体最適配車プラットフォームが動き出す
静岡市共同アプリ検討委員会の設置
期待していた静岡県タクシー協会静岡支部における共同アプリの検討委員会の設置が、11月12日の理事会で決まった。若手経営者を中心に委員の人選が進められ、リーダー役の委員長には静岡ひかりタクシーの泉真社長が選任されるようだ。
静岡市全体の共同アプリなので、合併前の旧清水市のエリアとなる静岡県タクシー協会清水支部にも検討委員会への参加が呼びかけられると思われる。
この静岡市共同アプリの全市的な実現は、静岡市のタクシー業界における地域全体最適配車プラットフォームに繋がるものであり、利用者の利便性とタクシー事業の生産性の向上をもたらすものなので、検討委員会にはその活躍を期待し、是非とも頑張って欲しいと思う。
大いに参考になった遠鉄タクシーの導入事例
11月24日、電脳交通(本社=徳島県徳島市)による、静岡県浜松市の遠鉄タクシーにおけるアプリ導入の事例紹介が、オンラインセミナーとして行われた。静岡県タクシー協会静岡支部からも、今後の共同アプリ検討の参考になるとのことで、このセミナーに参加するよう加盟タクシー会社に参加要請があった。
筆者は、駿河交通(清野大樹社長、静岡市駿河区、19台)の顧問でもあるので、このセミナーに参加した。1時間ほどの短時間のセミナーではあったが、プレゼンターを務めた遠鉄タクシー常務取締役運行営業部長の榊原正之氏の話は興味深く、非常に参考になった。
遠鉄タクシーは、浜松市域において5割を超えるタクシー保有車両数を誇る地域の大手タクシー会社で、遠州鉄道や遠鉄バスなどの交通関係だけでなく、デパートやスーパ―などの商業施設、不動産部門などを擁する、地域コングロマリットのタクシー部門である。
今年2月に、配車システムを電脳交通のものに入れ替えたのを機に、4月に電脳交通の配車アプリを導入したとのこと。
同社は以前、全国展開する配車プラットフォーマーのアプリを採用していたが、あまり普及せず、配車全体に占める割合は2%程度(現在の新アプリは18%に増加)であった。一方、営業回数全体の約7割が無線配車であり、電話が取り切れないタイミングなどもあって、利用者に迷惑を掛けることもあったという。また、以前のアプリでは配車予約が出来ないこともあり、その解決のために、自社の独自アプリを採用することになった。
この独自アプリの良い点は、全国展開する配車プラットフォーマーのアプリとは違い、アプリでのマッチングデータが配車室に入り、配車センターでのコントロールが効くことである。これにより、電話受付で予定していた予約車両がアプリ配車に取られてしまうというケースを防ぐことが出来る。
また、セミナー視聴者からの質問で、利用者へのアプリの告知、普及はどのようにしているかという点については、QRコード入りの名刺サイズの配布カードを作成し、同社乗務員よる直接の営業を推進しているとのことだった。独自アプリ普及による乗務員側のメリット(利用者が迎車車両の位置が分かることにより短時間での乗車が可能になるなど)を説明した上で、班ごとの成績を競ってもらい、商品券などのインセティブを付与することによって2万ダウンロードを達成したとのこと。
巨額な宣伝広告費を掛けなくても、タクシー利用者に接する乗務員自身が営業することで、独自アプリの普及が可能になるとのことだった。また、遠鉄バスにおいて、バスロケーションシステムの利用が停止になったことを受けて、その機能を配車アプリに組み込むことによって、バスロケーションシステムのユーザー約1万人が、この独自アプリを使うようになったとのこと。そうした新たな機能を独自に付加できることも、全国展開する配車アプリプラットフォーマーには無い独自アプリの良い点であるとの見方だった。
以上の点から、静岡市共同アプリの実現に向けて教訓化できるとしたら、
①地域の実情に合わせたアプリのカスタマイズが可能であること。
②アプリの普及には、巨額な広告宣伝費や利用者へのクーポン配布などによらず、実際にタクシーを使う利用者との接点を持つ乗務員、そして各タクシー会社が営業地盤とする地域の住民、さらに静岡市の行政ネットワーク等を活用した、草の根の活動が必要であること。
などになると思う。
地方におけるタクシーの全体最適配車システム
時代の流れという点でも、タクシーの注文システムは、アプリによる利用者の直近の車両への自動配車が基本になると思われる。
しかし当面の間、地方では、電話によるタクシーの配車受注は避けて通れないだろう。人口の少ない地方に行けば行くほど、迎車率は高まり、その多くは電話によるもの、というのが現状だ。
一方で、電話による受注・配車には人件費を中心としたコストが掛かる。現在、地方にある多くのタクシー会社では、乗務員不足により配車対応が出来ないことから、配車回数そのものが減り、配車部門のコスト割れを起こしている状況だ。また、電話受けや配車という業務も、コンピュータ配車システムを使ってもそれなりの経験とスキルを必要とし、またストレスが大きいことから、スタッフの確保が非常に難しくなっている。
仮に配車アプリの普及が進み、多くのタクシー利用者がアプリの自動配車を使用するようになっても、電話受付をすべて廃止することは難しく、併用という形になれば電話受付部門の採算はさらに悪化する。
この矛盾を解決するには、やはり地域における共同配車化の推進と電話受け配車業務のAIによる音声応答と自動配車しかないと思われる。もちろん、個々のタクシー会社の企業規模、顧客基盤の大小によって、この地域全体最適配車プラットフォームへの関わりの深浅は違ってくるだろう。
あくまでも自社の配車センターを維持しつつ、ネットワークを通じて地域のプラットフォ―ムに関与し、配車効率の向上を図る会社もあれば、自社の配車センターを廃して、共同配車のプラットフォームを活用して、コストダウンと実車率の向上を図ることが適している会社もあるかもしれない。
私が代表理事を務める現在の静岡TaaSは、プラットフォームとしては、いわばその中間的な存在で、各社の配車センターを業務委託という形で維持し、少しのコストダウンと少しの効率配車を実現している段階といえる。
今のところ静岡TaaSは、市内3社のタクシー会社から配車業務を受託しているが、仮にこの業務受託している会社数が増大した場合、より共同配車的な運用をすることが課題となるだろう。
すなわち、単一のAI音声による電話受付と自動配車、共同アプリの普及、また、それらによる静岡TaaSのコストダウンと業務受託料の低減、さらにはAIによる需要予測とタクシー供給のコントロールによって、実車時間率(実車時間の割合)を上げ、地方のタクシー事業の生産性向上を図る必要がある。
簡単ではないが、個々の会社の実情を踏まえつつ、地域全体の最適配車とコスト削減の仕組みを作り上げて行かねばならないと思う。
そのためには、静岡TaaSにとっても、まずは静岡市共同アプリに静岡市内にある全てのタクシー事業者に参加してもらい、地域全体最適のプラットフォ―ムの端緒を作ることが最優先事項と思われる。
今般、静岡県タクシー協会静岡支部の中に作られる共同アプリ検討会が多くのタクシー事業者を巻き込み、この地域全体最適のプラットフォーム創造の先頭に立ってもらえれば、と心から思う。
(2024年11月24日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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