日本版地域ライドシェアを目指せ!
ハノイでライドシェアGRABを体験
12月20日の朝6時の日本航空便でベトナムの首都ハノイから成田空港に到着した。ベトナムには、東海電子の杉本哲也社長のお誘いで「日越交通ソフトインフラ連携促進セミナー」に参加するために向かったものだが、いまや喫緊の課題であるライドシェアとタクシーについて深く考えさせられる体験をした。
ベトナムを含む東南アジアでは、Uberをも併呑して駆逐し、スーパーアプリ化したGrabによるライドシェアが圧倒的な力を持っている。以前に私がフィリピンで登録したGrabアプリがそのままベトナムでも使え、確かに外国人観光客にとってこれほど便利なものはない。
Grabアプリ上では、目的地や乗車地などの表記も日本語に対応しており、配車注文をした時点で運賃額も分かり、決済まで終えることが出来る。迎えに来る乗務員の名前や顔写真、車種、ナンバープレートもすべて表示され、乗車から降車までベトナム語が分からない私が一言も話さないまま空港に到着することが出来た。
今、日本で外国人観光客がタクシーを利用できないことに対し、ライドシェア導入が喧伝されるのは、なるほどと思う。しかし、ライドシェアを巡る問題は、実はそう簡単な話ではないことも分かった。
今回、東海電子側の尽力で、ベトナム全土で約1万6000台のタクシーを運行する最大手のマイリーンタクシーのフン社長、そしてハノイ市内で400台の車両を持つクエ・ルア社のヴイン社長から話を聞くことが出来た。
シンガポールに本社を置くGrabが5年前にベトナムに進出したことによるタクシー業界の打撃は深刻で、ヴィン社長によると営収が60%ダウンし、合併も含めて104社あったタクシー会社は10数社にまで減ったとのこと。
また、ベトナムタクシー協会の副会長でもあるフン社長によれば、Grab進出前には3万台だった車両台数が、バイクライドシェアも含めて40万台にまで増え、さらに36%もの手数料を取るケースさえあったとのこと。このため2020年に政令10号が発布され、運輸事業の定義が改められ、Grabも運輸事業者として登録されることになったとのことだった。
ここから得られる教訓としては、ライドシェア問題は単に外国人観光客の利便性や一時的な需給ギャップへの対応という次元ではなく、国および各地方自治体における移動の問題、ひいては街づくりの根幹にかかわる問題であり、国土交通省が10月に施行した地域交通法(改正地域公共交通活性化・再生法)に基づく各地方自治体の地域公共交通計画の中にしっかりと位置付けられるべき課題であると思う。
Grab、Uber、DiDiなど多国籍に展開するライドシェア・プラットフォーマーには、少子高齢化の中で移動難民化している日本の地方における移動ニーズに細やかに答えようとする動機はないと思われる。本来のシェアリング・エコノミーとはボランティア的で、共助、共創を目指すものであり、資本の自己増殖のための仕組みとは馴染まないものであるはずだ。マッチングの効率化は結構だが、それが効率に合わない需要の切り捨てと新たな労働の収奪、時価総額の肥大にのみ繋がるとしたら、シェアリング・エコノミーの理念が泣くというものだ。
地域交通法の施行とライドシェア
本年10月1日に国土交通省が「改正地域公共交通活性化・再生法」(地域交通法)を施行した。この法律の意味は、長らく少子高齢化の進行の中で地域の移動の足を守るために試行錯誤をしてきた結果、地域の多様な移動ニーズと多様な移動手段を地方自治体主導のもとに共創というキーワードで結び付け、維持しようとするものだと思う。
そして、従来の『地域公共交通網計画』から一歩進展させた『地域公共交通計画』を各地方自治体の責任のもとに作成、実施するよう求めている。一方で、この間のライドシェアを巡る動き、さらに数年前から試行錯誤されているMaaSの動き、こうした様々な動きがこの法律とどう整合されるのだろうか?
あるべき姿は、タクシーに自家用有償旅客運送も含めたドア・ツー・ドアのラストワンマイルの移動のプラットフォームを創造(共創)することだと思う。このプラットフォームが将来の鉄道・バスも含めた地域MaaSの構成部分になり、絵にかいた餅になり易いMaaS構想を、実現していく強力な推進力になると思う。
静岡市の第4次総合計画と地域公共交通計画
折しも静岡市では本年から、前期・後期と8年に渡る第4次総合計画が開始され、2024年度には新しい地域公共交通計画が策定され、実施に移されるとのこと。一方で、国土交通省の地域交通法では、地域の実情に応じてスクールバスや病院・福祉関係のバスなどあらゆる現存する移動・手段を地域公共交通の供給源として共創、活用することを推奨している。さらに今回、自家用有償旅客運送を、ラストワンマイル運送の核を担っているタクシー事業者に解禁する「日本版地域ライドシェア」が導入される。これは単にタクシー乗務員の不足を補うという次元の話ではなく、まさに今後の地域の移動の問題を解決していく、戦略的なステップである。
問題は、如何に静岡市全域の移動ニーズを一元的に把握し、配車注文を受け入れ、そしてそのニーズに応じた配車手配を効率的に行う地域全体最適のプラットフォームを、どうやって形成するかである。当然そのプラットフォームは、スマートフォンやタブレットなどのアプリに加えて高齢者向けに電話での受注も可能とし、タクシーのみならず、自家用車両なども一元的に配車が出来るような仕組みにしなくてはならない。
現在、タクシー車両については各社が別々の受付・配車システムを持ち、その結果として非効率、高コストという課題を抱え、利用者にとっても各社に個別に依頼せねばならず、負担であり、車両もつかまり難い。単に自家用車両を活用できるようになるだけでは、この非効率は解消できず、地域全体での移動手段の最適配車システムの確立は不可避である。
また、ハノイで体験したGrabアプリの便利さは、何もライドシェアの専売特許ではなく、同様のものが既に一部のタクシーでは取り入れられている。さらに急速に進むAI(人工知能)のこの分野での活用によって、利用者にもまた供給者にも使い勝手が良く、効率の良い仕組みが可能となるだろう。
地域公共交通にとっては日本版RSはチャンス
各地域の実情に基づき制定される地域公共交通計画にしっかり位置付けられたタクシー、日本版地域ライドシェアの活用は、地域の移動の問題の解決の突破口になると思われる。一方で、GrabやUberが海外で展開するような形態での、いわゆる「ライドシェア」が全面解禁になるか否かは予断を許さない状況だ。
タクシー業界が如何にこの先行する「日本版地域ライドシェア」のチャンスを活かして地域の移動問題に深くコミットし、地域の街づくりにも移動の面から全面的に貢献して行けるかどうか、まさにタクシー業界の力が試されている!
(2023年12月20日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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