続々・TSTiEドライバーになろう
東京都地域限定特例通訳案内士認定研修
1月15日から延べ10日間にわたった地域通訳案内士の認定研修だが、その修了試験が2月20日に終わった!結果は3月中旬に出る。
昨年5月のコラム「団塊耕志録」では、「TSTiEドライバーになろう!」の表題で、東京ハイヤー・タクシー協会の観光英語対応ドラバーTSTiE(Tokyo Sightseeing Taxi in English)になりたいと広言し、8月のコラム「続・TSTiEドライバーになろ」では、そのために都内のタクシー会社の定時制乗務員となり、東京タクシーセンターの地理試験等を受験、なんとか乗務員証を獲得して、東京のレベルの高い新人乗務員研修に四苦八苦しながら、TSTiEへの最終関門である東京都地域限定特例通訳案内士研修への準備のためにフィリピンのマニラへの短期語学留学などを報告した。
今回のコラム「続々・TSTiEドライバーになろう」では、その東京都地域限定特例通訳案内士研修受講の報告と、その研修の中で感じた課題について書いてみたい。
「通訳案内士」の重み
昨年の通訳案内士法の改正で、1月4日から通訳案内士の資格が無くても有料で通訳ガイドが出来るようになった。
一方、TSTiEは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、特区制度を活用してタクシー・ハイヤー乗務員が有料で通訳ガイドをできるようにするために2015年に創設された制度で、東京都地域限定特例通訳案内士認定研修を終了し、認定試験に合格した乗務員をTSTiEドライバーとして認定するというものである。
そしてこの認定研修は、東京都が主催し、その委託を受けたTrue Japan Tour株式会社が実施している。この会社は国家資格を持つ通訳案内士のNPO団体「日本文化体験交流塾」を母体とした旅行会社であり、また通訳案内士の受験指導、教育機関でもある。
私は、昨年実施された全国通訳案内士の2次試験で不合格になったのにも関わらず、図々しくもこのNPO団体に加盟、登録している。加盟条件が全国通訳案内士の資格を持っている人だけでなく、それを目指している人も加盟できるとあったからである。
この団体に加盟していると、通訳案内士の仕事の斡旋が次々とメールで送られてきて、手をあげると事務局による審査の上で、一番ふさわしい人に仕事が回るという仕組みである。もちろん私には通訳ガイドの実力が無いので手をあげないし、あげても却下されるであろう。(仮に手をあげて仕事を獲得し、料金を受け取っても改正された通訳案内士法の下では違法ではない)
ところで改正された通訳案内士法が成立・施行された今となっては、このTSTiEの存在に意味があるのだろうか? 少なくとも乗務員が有料で通訳ガイドをするという点だけをみれば、この特区制度を利用したTSTiEの資格がなくても可能である。
しかし、タクシー・ハイヤー運賃に加えて通訳ガイド料金をいただくためには、それに見合うサービス内容が必要である。単に英語(外国語)がしゃべれる乗務員というだけで別途料金という訳にはいかない。
実際に、東京タクシーセンターの資格であるEnglish CertifiedDriver(ECD)は、「当検定合格者( English Certified Driver)は、外国人利用者に対するタクシー営業の基本会話、緊急時の対応など英語でコミュニケーションを取ることができる」(東京タクシーセンター)とあり、地域限定とは言え、「通訳案内士」を名乗る以上、このECDを超える、有料に値する内実をTSTiEは備えなければならない。
ブランド化すべき通訳案内士
業務上の独占権がはずれ、名称的独占権のみが残された「通訳案内士」は、自らの独占的名称をブランド化する努力にしかその将来は無いと思う。 世の中のどんなブランドも独占権を与えられている訳ではなく、自らの製品の質と歴史によってそのブランド(まさに名称的独占権)を保っている。
「東京都地域限定通訳案内士」の名称を持つ「TSTiEドライバー」が、所謂ブランド力を持つにはいくつかの関門が控えていると思うが、日本が持っている「安全・安心・おもてなし」をベースとしたハイヤー・タクシー業界の対世界向けブランドの重要な一翼を担えるよう努力しなければいけないと思う。
東京都地域限定通訳案内士の研修のレベル
その意味で、この第一の関門である認定研修のレベルはどうであろうか?
研修テキストは東京ハイヤー・タクシー協会の監修のもとにTrue Japan Tour株式会社が作成したものだが、少なくとも東京をガイドする上でベースとなる情報が網羅されていると思う。
また、英語力という点ではTOEIC600点以上が研修参加資格の条件になっているが(全国通訳案内士の英語試験免除の点数は来年度から900点以上)、通常のTOEICの点数はリスニングとリーディング力の点数で、実は会話力を意味しない。それでも、タクシー乗務員の皆さんは、実に多彩な経歴を持った人が多いので、参加者の会話力は中々のものであった。
資格はスタート台に立つ条件
どんな資格試験もそうだと思うが、資格試験にパスしただけでは単にスタート台に立ったに過ぎない。実際にスタートをして業務をこなし、あちこちに頭をぶつけながら力をつけて行くのが現実である。
今回の研修で各社の参加乗務員と話す機会があったが、皆さんの関心はこのTSTiEの資格取得が実際の仕事にどのように結び付いて行くのかということであった。
既にTSTiE資格を取得している先輩たちの苦言として、実際の通訳ガイドの仕事が殆ど無く、そのために自分の通訳ガイド力をブラッシュアップする機会も少ないということがある。
通訳ガイド需要の開拓とTSTiEとのマッチング
その一方で、乗務員の実感としてはタクシーの通訳ガイドの需要は結構あるとのことだった。問題は、その需要を取り込む窓口とその需要をTSTiE乗務員に結び付ける仕組みが無いということだ。
そして、スタート台に立ったに過ぎないTSTiE資格取得者が、継続的に勉強をしていく機会がなく、また勉強という点では実際の仕事が一番有効なのだが、その実績が少ない。
こうした仕組みは、大手のタクシー会社では自社単独でできるかもしれないが、中小の会社ではなかなか大変なので、そうした仕組み作りを自主的に、乗務員仲間で取り組んでいこうかという頼もしい意見も出ている。多分、ブランドというのはこうした地道な現場の試行錯誤の蓄積の中で生まれて行くのではないかと思う。
(2018年2月21日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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