タクシージャパン 掲載コラム

静岡市ビジネスコンテストの結末

静岡TaaSにとっては残念な結果

 前々回の第163回コラムで、静岡市が初開催する共創ビジネスコンテスト『UNITE』&『BRIDGE』への挑戦を書いた。
 そして前回の第164回コラムでは、その第一次選考の結果が8月中旬に発表される予定であったものが、応募者が多数であることに加え、難波喬司・静岡市長が自ら応募された一つ一つのプロジェクトを吟味するとの理由から選考が遅れ、結果発表が9月中旬になると知らされた。
 そして運命の9 月13日、『BRIDGE』事務局から「社会課題を解決する魅力的な提案ではある」としながらも、非採択との通知を受けた。
 「行政課題対応型」のコンテストである『UNITE』に続き、テーマを限定しない、スタートアップ共創型の『BRIDGE』においても、第一次の書類審査の段階で非採択になったのは、少しショックが大きいが、それだけ自分たちの企画を凌駕する静岡市への良い提案がたくさんあったのだ、と慰めるしかない。
 いずれにせよ、コンテストに採択「される」、「されない」にかかわらず、静岡TaaSとして提案したプロジェクト『クルーズ船観光客向け観光タクシーマルチプラットフォーム創生事業』は、静岡市の観光業界とタクシー業界にとっては是非とも必要な事業である、との思いは変わらないので、観光行政や観光業界、地元タクシー協会との連携を強めて、この事業の実現に努めたいと思う。

静岡市地域共同配車アプリはどうなっているか?

 一方で、今年の2月29日、静岡市のタクシー協会が緊急の臨時会議を開き、そこで地域版共同配車アプリの導入が提案された。
 その趣旨としては、タクシー利用者向けスマホアプリの導入が全国で進みつつあるものの、全国展開する大手プラットフォーマーのアプリではその運用の主導権がプラットフォーマーにあり、通信費を含む手数料などの経費、さらにサービスエリアの拡大や縮小・撤退もプラットフォーマーの都合により決まり、地元タクシー事業者の事情は考慮されず、また地元の顧客がプラットフォーマーの顧客となり、タクシー事業者はその下請けとなって、運行データの利活用も含めて顧客基盤を失うことが危惧されることから、地元のタクシー事業者が自ら関わることの出来るアプリ配車のマッチングプラットフォームを実現するべく、独自の静岡市共同アプリを採用しようというものであった。
もちろん、大都市で普及する大手プラットフォーマーの配車アプリそのものを否定するのではなく、地元の共同アプリを主体としつつ、大都市からの訪問客が使う大手プラットフォーマーの配車アプリとの棲み分け、連携も目指すというものであった。

地域全体最適配車の核としての地域共同配車アプリ

 この提案に対し、静岡TaaSとしては、もろ手を挙げて賛同し、まさに地域のタクシー事業の時間当たり生産性(実車時間率)を向上させるためには、地域全体の顧客の注文と供給の最適マッチングを可能とする配車アプリの普及は肝であり、そのために静岡TaaSを設立し、さらにタクシー事業者が主体的に参加しやすいと思われる一般社団法人という運営組織の形をとった。そして、既に先行運用している利用者アプリ『タク呼び』とコストパフォーマンスが高い既設の配車システム『テレハイ』との連動に加え、『テレハイ』の非ユーザー向けには簡易型みちびきタブレットの採用を提案させてもらった。

アプリ選定作業の紆余曲折

 もちろん、この静岡市のタクシー協会による共同配車アプリ採用の提案募集に対し、手を挙げたのは静岡TaaSだけではない。
 山口市での地域共同アプリ運用に実績を持つREAに加え、電脳交通、ニアミーなど4社の競合となり、また補助金の申請期限の関係等から十分な検討時間が取れないこともあって、結果的にタクシー事業者の間で選択事業者が割れてしまい、結論が出ない状態にある。
 地元の静岡市で「地域全体最適配車プラットフォーム」を立ち上げるべくチャレンジしてきた静岡TaaSとしては、こうした結果は不本意でもあり、自らの非力が情けなくもあるが、こうなった原因を分析し、必要であれば他のアプリ会社との連携も視野に入れながら、頓挫している静岡市の地域共同配車アプリの導入をなんとしても実現したいと思う。

クルーズ船対応と地域共同配車アプリ

 地域共同配車アプリは、単に静岡市域のタクシー利用者の利便性と配車効率の向上につなげるだけではなく、清水港に寄港するクルーズ船のインバウンド客の利便性にもつながるものだ。現在クルーズ船の規模や時間帯によっては、港に待機するタクシー車両では配車が間に合わず、利用客から待ち時間を聞かれることもある状況だ。
 その待ち時間によってインバウンド客は、クルーズ船の出航時間に間に合うかどうかを判断し、タクシーチャーターを行うかどうかを決定するが、現状では、その問い合わせに答えるすべがない。
 しかし、地域共同配車アプリの採用により、各車両への位置情報と動態が分かる車載機器の設置が実現すれば、タクシー車両の現在位置と動態が把握でき、その問い合わせにかなり答えることが出来るようになる。さらにシステムアップによって、現場からの配車要請も可能になる。
 先の静岡市のビジネスコンテスト『クルーズ船観光客向け観光タクシーマルチプラットフォーム創生事業』では、現場でのチャーター手配よりも事前予約型のタクシーチャ―ターを増やすことが狙いだったが、清水港の埠頭現場での効率配車にこの共同配車アプリの仕組みが果たす役割は非常に大きい。

自家用車活用事業と地域共同配車アプリ

 9月19日に、静岡県タクシー協会主催の「日本版ライドシェア」(自家用車活用事業)の説明会が開かれた。全タク連の川鍋一朗会長が「少なくとも一社一台は日本版ライドシェアか公共ライドシェアを」と要請する中で、リスクを負ってチャレンジしている静岡ひかりタクシー泉真社長の講演での熱いメッセージに、私も心動かされた。
 そして、出来るならばこの自家用車活用事業も地元のタクシー事業者が主導する地域共同配車アプリで運用したいという思いをさらに強くした。
 そのためには、静岡県タクシー協会静岡支部および清水支部の若手経営者による「DX化検討部会」を設立し、地域共同配車アプリとクルーズ船対応マッチングシステム、そして自家用車活用事業に、業界としてチャレンジしてもらいたいと強く願う。静岡のタクシー業界と静岡市の未来のために…。
(2024年9月23日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

アメーバブログを始めました!
http://ameblo.jp/ykiyono800

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。