静岡TaaS第5回目の説明会
第5回静岡TaaS説明会の開催
4月18日に東静岡駅前にあるイベント施設「グランシップ」で第5回となる静岡TaaSの説明会を開催した。
昨年の5月に第1回の説明会を、開催してから1年が経過したが、残念ながらその第1回の説明会で設立を目指した『地域全体最適プラットフォーム』は未だに形を成していない。試行錯誤の連続のこの1年間は、『タクシー事業の生産性の向上の仕組みづくり』というレベルでは何も生み出してはいないが、何が課題で、どういう壁があるのかをあぶりだすという点では前進があったような気がする。
そして、タクシー事業の、特に地方のタクシー会社にとってその存続のためには避けて通れない共同配車化を軸とする共同化の必要性を、益々痛感するこの1年間であった。 第5回となる静岡TaaSの説明会では、この壁を突破するいくつかの武器を得たような気がする。未完成ではあるが、静岡TaaSという地域全体最適プラットフォームを創造するために必要な武器だ。
視野の広さと言う武器
ひとつはタクシーという枠組みだけに捕らわれない視野の広さだ。説明会では、名古屋大学特任准教授で、静岡MaaSの牽引役も果たしてきた金森亮先生から『静岡市の移動の未来とタクシー事業者に期待する事』という講演を聴いた。その中では、他分野の交通事業者と連携し、MaaS本来の趣旨である自家用車に対抗する公共交通サービス網を作り上げること、潜在的な移動ニーズを顕在化させることの示唆を受けた。
『テレハイみちびき』という武器
また、今回の説明会では、満を持してこの3月31日にリリースされたシステムオリジンの新タブレット車載端末『テレハイみちびき』の紹介、実機によるデモンストレーションが行われた。従来のGPSIAVM配車システムに加える新タブレットの登場は、そのカスタマイズの柔軟性から地域独自のプラットフォームを作る上で大きな役割を果たすと思われる。
さらにシステムオリジンからは、静岡TaaSオリジナルの配車アプリ『タク呼び』とその一部である「タク放題」が紹介された。地域全体最適プラットフォームが機能する上で配車アプリと潜在移動ニーズを顕在化させる大きな分野としてのサブスクモデルは重要な武器である。また、配車コスト面でも人手による電話受付配車から操作性の良いスマホアプリによる配車受注システムへの移行は必須である。
月決め定額乗り放題のサービス『タク放題』の主要な顧客は確かに高齢者であり、高齢者はスマホ配車アプリになじまないというのが一般的な認識であるが、しかし、高齢者でも携帯電話としてのスマホをお持ちの方は多く、オリジンのスマホ配車アプリは配車センターに位置情報付きの電話発信もできるハイブリッドな仕様という特徴がある。十分に高齢者にも使ってもらえる配車注文アプリだと思う。
共同点呼につながる遠隔点呼という武器
さらに説明会では、アルコール検知器の大手メーカーである東海電子の杉本哲也社長から『遠隔点呼の現状と方向性』というテーマで、今年1月に開催した説明会に引き続きプレゼンテーションが行われた。前回のコラムでも述べたように、地方の中小タクシー事業者が配車の共同化を進めるためには点呼の共同化が不可欠であり、そのためには遠隔点呼の仕組みが必須である。しかし、現時点では同一資本系列における営業所間点呼しか認められていないので、静岡TaaSとして配車センターを開設する予定の静岡市葵区沓谷のビルに、実験的に駿河交通の沓谷営業所を開設し、5月中に遠隔点呼の申請を行い、認可を受けることができれば7月から遠隔点呼が可能となる予定だ。共同配車化による点呼の問題をクリアできるのではないかと思う。東海電子の杉本社長のプレゼンでは、駿河交通が予定している遠隔点呼の具体的な申請書類の概要も提示され、また、国交省の『運行管理高度化検討会』の検討テーマに協同組合等による共同点呼がはいっていると今後の方向性が示された。
一般社団法人静岡TaaSはタクシー事業者を構成会員とする組織を目指しているので、是非この共同点呼を担いうる組織として力をつけて行きたいと思う。
遠隔点呼はデジタル点呼
一方で、遠隔点呼はIT機器を活用したデジタル点呼であり、勤務実態が正確に記録される。地方ではしばしば時間管理がルーズなケースもあるが、しかし時間当たりの生産性を上げるというタクシー事業の根本的なテーマからすれば、時間管理は必須である。時間当たりの生産性が低いことから来る最賃抵触や長時間労働の問題は、あいまいな時間管理で対処するのではなく、それこそ地域全体最適プラットフォームと新たな需要創造、それによる時間当たりの生産性の向上によって克服する道を目指さなければならないと思う。確かに現実には困難な道であり、一朝一夕には実現できないが、その方向を目指さなければタクシー業界の未来は無いと思われる。
フレックスタイム制という武器
地方の勤務実態に近く、なおかつ遠隔点呼などのデジタル時間管理に向く勤務体制として、システムオリジンの社会保険労務士資格を持つシステムエンジニアの土橋豪・IT労務アドバイザーから『フレックスタイム制導入とその課題』というプレゼンが今回の説明会で行われた。フレックスタイム制は需要に合わせた勤務スタイルを取りやすく、上手く活用すれば乗務員にも事業者にも、また労働時間管理という点でも有効な勤務体制だと思われる。いくつかの注意すべき点を踏まえて、是非とも実現に向けて検討してもらいたい勤務スタイルだと思う。
静岡TaaSの今後
静岡TaaSでは現在、静岡市タクシー事業協同組合が3階に事務所を置くビルの2階に配車センターを開設する。5月中には、同地に駿河交通の沓谷営業所と無線配車室を移転する予定だ。現時点では駿河交通のみの一社の配車センターではあるが、共同配車のための受皿として先行して運営することにした。また、7月1日に静岡市の北西地域でタクシーの月極定額乗り放題のサブスクモデル『タク放題』を、募集型企画旅行のスキームによりサービスを開始すべく準備を進めている。会員獲得が大きな課題だが、昼間の時間帯のタクシー業の新たな、そして大きな需要の開拓としてチャレンジしていきたい。12月までの実証実験であり、試行錯誤は避けられないと思うが、その正反両面の経験を踏まえて、次のチャレンジに繋げたい。 静岡TaaSが昨年の5月にスタートし、とにもかくにもここまで辿り着けたのは本当に多くの人のサポートのおかげであり、心から感謝したいと思う。またタクシー業界の存続、発展は何よりも地元の市民の移動の利便性確保のために絶対必要なことだと強く思い、引き続きチャレンジを続けたい。
(2022年4月21日)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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