タクシージャパン 掲載コラム

静岡TaaSのこれから

静岡TaaSのこれから

 今年5月21日に開催した静岡TaaSについてのタクシー事業者向け説明会に引き続き、7月7日には第1回となる情報交換会を行った。
 情報交換会には、静岡市内のタクシー事業者13社を含む14社の出席と静岡市の関係者の傍聴もいただき、静岡TaaSで取り組む旅行業や職業紹介事業の資格取得を含む現状と将来構想の報告をさせてもらった。
 しかし、タクシー事業者の静岡TaaSに関する現在の関心事は、絵に描いた餅のような将来構想よりも、静岡TaaS共同コールセンターに参加した場合のメリットとデメリットを知りたいということであった。
 総論としては、確かに地域プラットフォームによる共同化の時代であるとして静岡TaaSの構想に賛同したとしても、共同コールセンターに参加した場合のメリットとデメリットが分からなければ、各論での具体的な判断ができないとの意見が、その後のヒアリングでも多かった。
 確かに理念先行というのが私の悪い癖で、そこの詰めが甘かった。とりわけ静岡TaaS参加の直接的なメリットである配車コストの削減について、現段階では具体的な数字を提案できていないし、そもそもその前提になる各社の現状でのコスト把握もできていない。
 と、言うことで、各社のヒアリングを集中的に行わせてもらうことにした。各社によって状況は違うだろうが、少なくとも現状より3割減から半分にまでコスト削減ができなくてはいけないと感じたところだ。
 一方で、各社の静岡TaaS共同コールセンターへの参加に対する懸念、デメリットについても把握しておかなければいけない。特にブランド力と独自のサービスを持ち、コロナ禍でもそれなりの無線配車回数を確保している会社と、そうでない会社を一元的に共同配車化した場合、市場の需要が同じであれば供給の平準化が起こり、比較的配車回数の多い会社にとって不利だという危惧は捨てきれない。
 静岡市内タクシー業界の場合、それぞれの本社の所在地と主な営業エリアが地域的に分散している。このことを鑑みれば、現在の顧客が静岡TaaSのプラットフォームでも従来と同じタクシー会社にシステム的にも配車される確率は高く、さらに配車アプリやコールセンターでも会社選択が出来るようにすれば、この危惧も多少は解消できるだろうが、ゼロにはならない。
 従って、静岡TaaSでは従来のパイをとりあうのではなく、需要そのものをその活動によって拡大し、尚且つ、時間帯、地域、天候などによる需給のミスマッチによる機会損失を極小化する活動と運用が問われることになる。

需要の拡大を如何に実現?

 需要の拡大!すべての産業の興隆の根本は、やはり需要を増やすことである。とりわけ地方のタクシー産業にとっては喫緊の課題である。
乗務員不足の問題も、根本はタクシー需要が減り、乗務員が稼げず、その結果として乗務員が集まらないことにある。その結果として事実上の減休車に追い込まれ、会社としての売上も減るという負のスパイラルに陥っている。そのため今の地方のタクシー事業者の関心事は、配車と管理のコスト削減に集中しているが、残念ながらコスト削減だけでは未来は無い。
 では本当に移動需要は存在しないのか?ここにも移動需要と供給のミスマッチが存在する。従来、地方では大都市とは違い、通勤は自家用車によるものが多く、従って夜のお酒を含む飲食の際の前後にタクシーを使うケースが多かったし、多くのタクシー事業者にとって午前中の老人の病院通い需要と共に主要な売上の源であった。しかし、今回のコロナ禍の中で夜の飲食自体が自粛・制限され、当然としてタクシー需要も消失してしまった。
この消失需要は、コロナワクチン接種が進み、夜の飲食を始めとした人々の移動が再開すれば、ある程度の回復は見込めるかもしれない。
 しかし、実はこうした需要の減少はコロナ禍以前でも進行しており、タクシーの地盤沈下は進んでいた。
 その意味で、新たなというか潜在的な移動需要の掘り起こしが問われている。そのための重要なポイントが運賃の問題である。現行のタクシー運賃が移動を必要としている人にとって少し高すぎて、飲酒運転によるリスクを回避するとか、時間的に急を要する人とか、他に移動の代替手段を持たない人など限られた人にしか利用されない移動手段になってしまっている。
 運賃が高いと指摘するとタクシー事業者の顰蹙を買うので、あえていえば運賃とサービスメニューの多様化による、潜在移動需要の取り込みという提案である。実際に、事前定額運賃やダイナミックプライシング(変動運賃)、そして決め手としてのサブスクリプション運賃は、運賃の多様化による移動重要の新たな取り込みへの模索である。つまり、今までタクシーに乗らない人たちが、新しいサービスメニューと運賃体系と配車依頼手段のスマート化によって、層としてタクシー利用客になってもらうことである。それはさらに地方のタクシー業界が、地域コミュニティとそれに関わる地域交通行政との結び付きを深くして連携することを必要とする。また、地方自治体も『地域公共交通活性化再生法』の改正により、タクシーを含む地域公共交通の活性化に主導的に取り組むことが義務付けられている。
 その点、静岡市は2019年より『静岡MaaS』事業を立ち上げ、国土交通省や経済産業省の重点地区にも指定され、地域公共交通の一端、いや主要なポジションを占めるべきタクシーの需要増につながる役割を果たす可能性がある。

問題は、タクシー業界と静岡TaaSが地域公共交通の活性化を担いうる実態をどう作り上げられるかである。そのための重要な手段として、経産省も推奨する旅行業法の柔軟な活用がある。運賃の柔軟な活用のための手段としてのみならず、様々な企画旅行を立ち上げ、静岡市の持つ潜在的な観光資源を、具体的なタクシーの旅行移動需要として掘り起こしていかなければならない。そのために、静岡TaaSでは旅行業のための準備を進めている。たまたま私は2018年に総合旅行業務管理者の資格を取得しているので、9月末には旅行業をスタートできるようにしたい。

乗務員確保を如何に実現?

仮にタクシーの需要拡大が前掲の手段で可能としても、ではそれを担う乗務員をどう確保するか、ということが大きな問題となる。現時点では、静岡市内においてフルタイムの乗務員確保は非常に難しい。そこで副業ドライバーを静岡TaaSが構造的に取り込み、タクシー会社に紹介斡旋し、本業との時間管理の仕組みを開発して行きたいと思っている(サブジョブドライバープラットフォーム)。
 実は、副業ドライバーといっても非常に多様な形があり、それぞれの副業ドライバーの実情(本業が自営業、自由業、主婦、リモートワーカー、定時サラリーマン、中抜け、等々)に、それぞれ細やかに合わせた働き方のルール、あるいはむしろ思想(!)
レベルのパラダイム転換が必要と思われる。
 移動需要に合わせた効率的な車両の供給がタクシー事業の生産性を上げるための重要なポイントだが、この車両供給のコントロールが非常に難しい。タクシー乗務員の気質としては、多分、副業ドライバーも含めてコントロール(管理)されるのを嫌う人たちが多いのではないか。この矛盾を如何に克服するか?とりあえず私自身がこの副業ドライバーにチャレンジして、その答えを探る先兵になってみたい。(2021年7月25日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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