タクシージャパン 掲載コラム

静岡TaaSの原点

静岡TaaSの目的

 改めて静岡TaaSの原点と目的を問い直す必要を感じている。
 新しい仕組みと組織を作る上で、試行錯誤は避けられないが、しかし、偶然や局面の変化に流されて、そもそも何のためにこの仕組みー静岡TaaSーを設立しようとし、何を目指して組織を立ち上げようとしているのか。
とりわけ、誰がその仕組みと組織の推進力になり得るのか、また事業立ち上げの優先順位を間違えると、理想は立派だが、一向に現実の力を持ちえないということになる。
 静岡TaaSのステークホルダーは、タクシーの利用者、地域の交通行政、タクシー事業者、そしてこの企画のコーディネーターの4者であるが、それぞれのステークホルダーの立場に応じて静岡TaaSの意味は違ってくる。利用者にとっては、いつでも、多様な、そしてリーズナブルな費用で移動が確保される仕組みとしての静岡TaaSが期待される。行政にとっては地域公共交通活性化再生法で義務付けられた地域公共交通の安定的確保であり、市民の移動権の有力な担保の仕組みである。そしてタクシー事業者にとっては構造的な課題である需要の減少とそれによる労働力の不足、さらには事業存続の危機に対して地域全体のタクシー事業者の協調、協業による打開策の確保である。
 では今回、勝手連的にコーディネーター役を担おうとしている私にとっては、静岡TaaSはどのような意味と目的があるのか?
 極めて個人的な思いとしては、システムオリジン20周年(2003年)の時に掲げた『未来への志』=「新しい時代のタクシービジネスモデルの創造のお役に立ちたい」という積年の宿題の完遂であるが、また、一方で現在の自分のシステムオリジンでの役籍である戦略企画担当取締役としては、タクシー業界の存続、発展がタクシー業界に特化しているソフトハウスとしては喫緊の課題であり、タクシー事業の生産性を向上させ得る組織、システム、コーディネートノウハウの獲得がオリジン自身の存続、発展にとっても戦略的な課題である。
 なんだ、システムオリジンは静岡市の住民や地域の発展を考えないのか?と言われそうだが、もちろんそれを目指しはするが、静岡TaaS(地域最適プラットフォーム)の確立と発展を通して、地域住民に貢献する、ひいては静岡のみならず全国の地域住民に役立つ道が開かれるのだと思う。

静岡TaaSの推進母体は誰か?

では、こうしたラストワンマイルを担う地域プラットフォームを推進する主要母体はこの4つのステークホルダーの中で誰か?利用者は移動サービスの消費者であり、積極的な推進者とはなりえない。では地域行政か?
法的には地域公共交通の計画と推進の義務を課されているが、現実的には連携とサポート以上を望むのには無理がある。
 ではコーディネーターが推進母体か?そもそも言い出しっぺであり、一般社団法人を作り、代表理事、理事にもなっているのだから、当然にも推進母体であるべきだとは思う。しかし、まさに静岡TaaSの現状がそうなのだが、このコーディネーターが唯一の推進母体にとどまっているうちはこの静岡TaaSは機能しない。もちろん大手の巨額な資本が入り、資金面や人材、技術面で巨大な投資が可能であればこうした組織がプラットフォームの推進母体になり得るかも知れない(多分あまりうまく行かないだろうが…)。
しかし現実の静岡TaaSのコーディネーターは意欲だけはあるが、資金面、人材面、技術面で決して十分な力がある訳ではないのが現実である。従って、我々コーディネーターの役割は実は本来の静岡TaaSの主人公であるタクシー事業者がその力を発揮してもらえる企画と調整をねばりづよくチャレンジして行くことだと思う。

静岡TaaSの基本構想

 今年5月21日の静岡TaaSの説明会で提案した静岡TaaSの構想を再度、示したい。ここではタクシー事業の根本課題である生産性の低さの理由を実車時間率と実働時間率の低さに求め、実車時間率については地域プラットフォームによる①需要の喚起②供給の適切なマッチングによる実車時間率の向上、実働時間率についてはサブジョブドライバーのタクシー業界への構造的組み込みによる実働時間率の向上という形で提案した。いずれも共同コールセンター、サブジョブドライバープラットフォームの確立なくして実現できないものである。
 こうした構想に対して、タクシー事業者の多くは総論賛成であり、興味と関心を持っていただいているが、決断にいたる具体的な仕組み、仕様、費用、メリットとデメリットの詳細が提示しきれていないことによる判断の保留が現状である。この間、詳細なヒアリングを行わせてもらい、多くの事業者から情報の提供をいただき、9月の初旬には事業者に費用的なシミュレーションを提示できるところまで来た(本来は8月中旬には回答というお約束で会ったのだが…)。

問題はプロセス― 私の反省

静岡TaaSの事業は多岐に渡る、そしてその事業全体の合わせ技で生産性の向上が実現するという仕組みである。問題は、その多岐な事業が一挙に実現するわけでは無く、順序を間違えると空中分解してしまうことだ。
また、その事業を実現するプロセスがタクシー事業者の主体的、積極的参加を引き出すものでなければ、静岡TaaSの本当の意味での力が発揮されない。複数の利害の違う事業者がこうしたプラットフォームに関わり、単にサービスの受給者としてではなく、このプラットフォームの運営主体になっていくためには、参加へのプロセスがどのようなものであるかが非常に大事となる。その点で、この間のコーディネーターの事業推進の仕方が問題であった。静岡TaaSの会員になるかならないか?サービスを受けるか受けないか?という二者択一の選択を結果的に迫る形で運営されてきた。
 今回、10月に予定していた暫定的な共同コールセンターの立ち上げはシステム面の準備不足により中止し、来春4月の本格的な立ち上げに全面的に備えることにした。そして、その猶予期間を活用し、静岡TaaS内にテーマ毎の委員会を作り、タクシー事業者に正会員としてではなくオブザーバーとして興味のある委員会に参加してもらい、自由に情報収集と各社の課題についての意見交換の場を持ちたいと思う。

 各委員会のテーマは①共同コールセンター②サブジョブドライバープラットフォーム③チケット・決済システム④運行管理業務委託検討⑤旅行業企画⑥行政連携⑦地域コミュニティ連携の7つ。
 各委員会のコーディネーターは静岡TaaSのスタッフが勤め、叩き台はスタッフ側で準備するが、オブザーバーとしてのタクシー事業者の意見を吸収し、静岡TaaSがタクシー事業者自身の主体的事業になるべく努めたい。
 コロナ禍後の業界の復活、発展の為の準備に全力を尽くして行きたい。
(2021年8月22日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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