タクシージャパン 掲載コラム

派手な空中戦から地道な地上戦へ

 

清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950 年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980 年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982 年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992 年代表取締役社長就任。2016 年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021 年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021 年5月 一般社団法人静岡TaaS 代表理事に就任。

会員獲得がすべての肝

エリア限定によるタクシーの月額定額乗り放題サービス「タク放題」が、如何に社会的価値のあるサービスだとしても、ビジネスとして持続するためには、利用者の日常の行動範囲を考え抜いたエリアの設定、そして適切な価格、移動の目的も踏まえたサービスの質、会員に待ってもらうことのできる限界時間を踏まえた運行タクシーの借上台数とそのコスト、配車アプリを主体とした受付と配車システムなどのすべての要素が高度にバランスを取れていることが必須である。

 その難しさに頭がくらくらしそうだが、結局は如何に利用会員数を増やすかが全ての出発点である。そして利用会員数を増やすには如何にこのサービスの認知を図り、加入の機会を準備するかということである。

 残念ながら、地域の一般消費者へのアプローチは私自身にとっても未経験で不得意な分野でもある。しかし、幸いなことに、私の周囲にそのようなことが得手で、ノボリやチラシ、パネルなどの一般消費者向けの様々な営業ツールを作ってくれる人達がいて、今年6月からの会員獲得のための営業活動を継続することが出来ている。
 「タク放題」のサービス提供エリア内には4万5000人(65歳以上の1万5000人を含む)の住民がおり、これまで6回に渡り、延べ10万枚を超える新聞折込みチラシを配布してきた。さらに、静岡市呉服町などの中心街でチラシ配布活動を延べ60人、10日間に渡って5000枚を配布し、受付ブースを中心街の青葉公園や市内の大手デパート「松坂屋」に延べ30日間に渡って設置し、会員募集のための集客活動に努めた。
 営業活動開始当初の6月の段階では、社会的にもインパクトのある取組みとして地元テレビ3局のニュース番組に取り上げられ、延べ放映時間は15分にもなった。
 私としては、こうした活動を通じて地域での社会的な認知が進み、「タク放題」の会員数も増えるものと期待したが、現実は厳しく、簡単には結果に結び付かないことも分かった。特にエリアの設定に甘さがあり、エリア外側の近隣からの引き合いが多く寄せられたが、残念ながら簡単にはエリア変更はできない。また、加入申込み場所が常設場所ではなく不定期でスポット的にしか設置できなかったため、申込みし難いという声も聞かれた。この点については、9月から旅行会社および携帯ショップと業務委託契約を結び、会員申込みの常設店としたが、まだ結果は出ていない。

 

スーパーでの集中宣伝活動

 

7月1日にタク放題のサービスを開始し、一カ月が経過した頃、エリア内にある、地元の大手スーパーの店舗に「タク放題」の乗降地として全体の2割の利用があることが判明した。
 以前にこのスーパー店舗での宣伝活動を試みたものの、断られたという経緯があった。しかし、このスーパーのオーナーが、「タク放題」サービスを評価してサポートしてくれている静岡市会議員と懇意であることが判明し、有難いことにこの市議会議員を通じてスーパーのオーナーを紹介してもらえた。
 お会いしたスーパーのオーナーに「タク放題」の利用実績をアピールする一方で、このオーナーが自分の母親に免許返納をしてもらいたいとの意向を持っていたこともあって、「タク放題」のサービスを、高く評価してくれた。そして、スーパー店舗での会員募集のための営業活動を許可してもらえることになった。
 8月26日から9月11日までの16日間、来店客へのチラシの配布と会員成約キャンペーンを行った。チラシの配布率は非常に高く、ほぼ全ての来店客にチラシを受け取ってもらえ、サービスそのものの認知はかなり進んだとの実感があった。また、申込み客も数人あったが、会員拡大のための成約数について
は残念ながら期待したほどではなかった。
 しかし、静岡市中心街で実施した宣伝活動では対象エリア内の居住者に接する確率は低いが、このスーパー店舗でのチラシ配布は効率が高く、こうしたエリア内に商圏を持つ商業施設での会員募集活動の必要性を改めて強く感じた。
 また、エリア内の医療施設(医院、薬局)や福祉介護施設、社会福祉協議会、民生委員、町内会、老人会などの地域コミュニティーとも既に多少の接点を持っており、こうしたルートからも積極的なアプローチを強めたい。

 

空中戦から地道な地上戦へ

マスコミを通じてや折込みチラシなどの資金をかけた空中戦から、地元の人脈を活用した地道な会員獲得のための地上戦の段階に入ってきたのかな、とも思っている。既に「タク放題」のサービスは、開始から二カ月が経過し、利用者の評価も高いところから、このサービスの良さが口コミを通じて地元の人的ネットワークに広がれば、必ず利用者が増えると確信している。

実際に、先のスーパー店舗での会員募集活動の中でも、免許返納後の足の確保に対する心配がこの「タク放題」サービスによって、かなり解消できるとの声も多く聞いた。また、免許返納は、高齢者による交通事故の心配というよりも、車を持つことの経済的負担の軽減という観点からの声が多かった。それにしても、こうした新しいサービスの認知の浸透と、実際の利用までには本当に多くの時間がかか
り、地道な会員募集活動を必要とする世界だと改めて痛感する。

 全国各地において、「タク放題」と同様に、実証実験という形で様々なオンデマンド型の移動サービスが運行されているが、サービスの実用化には数カ月では到底無理で、最低1年はやらないと認知の浸透とその成否は分からないのではないかと思っている。「タク放題」についても、今年12月までの6カ
月間の実証実験としているが、この期間内における正反両面の経験を基に、来年以降も是非、「タク放題」を継続して行きたい。

 実際、現在の利用会員の中には、このサービスを必ず継続して欲しいと、自ら町内会の回覧板で「タク放題」のチラシを配布したり、友人や知人に対して会員加入を勧誘したりしていると、利用者のヒアリングをした際に語ってくれた方がいた。大きな資本力を持たない静岡TaaSとしては、当分は手弁当で地道な会員募集活動を続けるしかないが、社会的に必要なサービスであると強く感じているので、「タク放題」サービス継続のために粘り強く頑張って行きたい。

ホームページから申し込み決済ができる!

これは大きな朗報だと思うが、
10月から静岡TaaSのホームページ上で「タク放題」の申込みとクレジットカード決済が出来るようになる。高齢でインターネットは苦手だという方でも、家族などに手伝ってもらえれば、簡単に「タク放題」会員の申込みができるのは、会員獲得のための大きな武器になるのではないかと期待している。
 また、「タク放題」利用者の中においても、専用配車アプリを使っての配車申込みが増えており、こうしたIT技術の普及も「タク放題」サービスがビジネスとして継続できる重要な一因だと思う。また先日、「タク放題」の乗務員として応募したいという嬉しい問い合わせがあった。限られたエリア内において、乗車地と降車地をすべてナビで誘導してくれる「タク放題」の乗務であればやれそうだという副業ドライバーがこれから増えるのではないかと大いに期待したい。
(2022年9月21日記)

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