モスクワのスマホ配車
チームネクストセミナー合宿inモスクワ
今回、セミナー合宿で訪問したロシア連邦の首都モスクワは、なかなか行く機会の無い都市ではあるし、ソ連邦の崩壊とその後の混乱、そして現在のプーチン政権に対するウクライナ問題に端を発した西側の経済制裁などもあり、進んで観光などで行きにくいところではある。
今回は、たまたまサッカーワールドカップのロシア大会が開催され、全世界からサッカー観戦の観客を迎え入れ、その経験や教訓を東京オリンピックの準備に生かそうという企画で、モスクワに白羽の矢がたった。
モスクワ市観光局や交通局でのプレゼン、ロシアで検索ソフトやタクシーのスマホ配車システムを運用するヤンデックス社の訪問と交流、今回のサッカーワールドカップ・ロシア大会の陸上交通部門を取り仕切ったコンサルタント会社のひとつである、Fusion Auto社との交流をすることができた。
さらにモスクワ大学で道路交通関連の研究を行い、モスクワ市における交通渋滞の解消に貢献した、長岡技術科学大学の鳩山紀一郎特任准教授にも同行してもらい、そのおかげでモスクワ大学において優良タクシー事業者のプレゼンテーションを聞く機会を得ることもできた。
モスクワは綺麗な街
モスクワと聞くとどんな街を思い浮かべるだろうか?
ソ連時代から続く首都であり、壮大なクレムリン宮殿があり、北にある寒くて暗い都市。実際に訪問する前における私の先入観ではそんな感じであった。
だからこそ、実際に訪れてみて「百聞は一見に如かず」と強く感じた。
天候にも恵まれたが、モスクワは綺麗で明るい街という印象が強かった。高層建築は、さほど広くない新都心部を除くと殆どなく、かつてスターリンがソ連帝国の威容を示すために建設したモスクワ大学などの30数階建ての立派なスターリン・ゴシックの建物が7棟あるぐらいだ。そして道路沿いの建物は、概ね7~8階建てで、ヨーロッパ風の落ち着いた外観だ。
そして日本の都市と同様に、建物も道路も綺麗で、いわゆるスラム風の地域も私の訪れた範囲では見当たらなかった(インターネットで調べてみるとやはり存在はするようであるが…)。モスクワ市では、特に今回のサッカーワールドカップの開催に合わせて大きな予算を使って街の整備や美化に努めたようだった。
モスクワといえばクレムリン宮殿とその眼前の赤の広場が連想されるが、昨年の9月にオープンしたザリヤジエ公園は素晴らしいところだった。クレムリンとモスクワ川の間に建設されたこの公園は、およそ従来のロシアのイメージとは遠く、コンサートホールや氷の洞窟、モスクワ川の上空に浮遊したようなブーメラン型の橋が特徴で、アメリカのタイム誌において世界最高の名所の一つに選ばれている。新生ロシアを象徴するエリアかも知れない。
モスクワ市民の生活
初日に観光案内をしてくれたガイドによると、モスクワ市民の平均収入は月額十数万円だということだった。
特にモスクワの物価は日本と比べてもそう違わないので、市民生活はかなり苦しいのではないかと思ったが、実際にはそういう感じを受けなかった。
その理由としては、住居がソ連時代の国有住居が、ロシアに変わった時に無償で払い下げられ、住居費がかからないことや、さらには光熱費がふんだんに使っても月2000円以下に収まることなどがあり、市民の暮らしぶりは案外と余裕があるとのことだった。
モスクワのタクシー事情
ソ連崩壊後のタクシーは、いわゆる白タクの天下だったらしい。それは、今日いわれているライドシェアのイメージではなく、通勤途中の自家用車などでも、路肩で手が上がると車を止め、価格を交渉し、乗せていたため、利用者は随分と不便な思いをしていたらしい。
2011年にようやくロシア連邦法でタクシー乗務員への資格規制などが決められ、乗務員登録のほか、車両の色やナンバー、タクシーであると証明するステッカー、メーター器の設置などが義務付けられた。
当然として白タクは非合法化されたが、完全排除までには至らなかったようだ。そうした中で2014年ごろからスマホによるタクシー配車システムが始まり、ちょうど日本のヤフーのようなインターネット検索会社のヤンデックス社などが、スマホアプリ上での車両の位置表示、運賃の事前確定と決済、さらには低額運賃の提示などで圧倒的な利用者の支持を受け、白タクを駆逐したのみならず、約1200万人の大都市であるモスクワから流しタクシーを一掃してしまった。つまり、モスクワでは誰もがスマホ配車アプリでタクシーを呼ぶようになり、その割合は約8割に達し、残りは電話による注文ということになった。
その理由として、モスクワにタクシー運賃の規制が無く、メーター器はあっても価格は任意に設定でき、スマホ配車会社間の競争による値下がりが激しくなったからだ。そのため、モスクワのタクシーは世界で3番目に運賃が安いとのことだった。
その一方でタクシーの需要は増え、利用者は規制前と比べて17倍に増えたとのことだった。
日本では、特に東京などの大都市ではタクシーは流し営業が主体であり、スマホ配車アプリで呼ぶお客様は今のところ少ない。大きな通りに出ればタクシーは頻繁に走っているし、また配車アプリで呼べば迎車料金もかかる。都市部のタクシー利用者にとっては、あまりスマホ配車のメリットは感じられない。またタクシー事業者側でも、ライドシェアに対抗するためのアリバイとしてスマホ配車システムを導入しているケースが多いようにも感じる。
そこで、このスマホ配車の仕組みについては全く別次元からのアプローチが必要だと思っている。すなわち現在のタクシー事業モデルが持つ本質的な生産性の低さ、さらにそれを起因とする乗務員不足を解決することを目的に、利用者のスマホと車輌の端末をクラウドに結びつけ、AIの力によって需要を予測、更に需要喚起をも行って、地域に最適の効率マッチングを広範に、大規模に実現することだ。
端的に言えば、実車時間率と実働率を限りなく100%に近づけることである。このためにこそ、スマホによる受注促進を行う必要があり、利用者利便はその中の一部に過ぎない。ではモスクワ並みにスマホ配車の利用を促進するためにはどうしたら良いか?そのヒントは全タク連が取りまとめた活性化11項目の施策のひとつである「月極め定額乗り放題」の実現にあり、その実施に伴うリスクを担うプラットフォーマーの登場にあると思う。
(2018年9月25日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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