静岡TaaS第3回説明会
3つの分野のたたき台提案
先月の第129回のコラムでも紹介した静岡TaaSの業務関連図に基づき、7つの業務分野のうち、10月14日に開催した第3回説明会では、主要な3つの分野でのたたき台を提案させてもらった。
一つ目は、一番の基盤となる共同コールセンター業務。
二つ目は、新たな需要開拓の肝となるかもしれないサブスクリプションモデル。そして3つ目は、料金回収・顧客管理システムの提案である。
いずれも静岡TaaS内部での議論を踏まえたタクシー事業者へのたたき台の提案であり、オブザーバーという形ではあれ積極的に提案内容について揉んでもらい、内容を深化させて静岡TaaSの実体を作り上げて行きたいとの趣旨だ。
柔軟な共同コールセンター
共同コールセンターについては、個々のタクシー事業者の状況に応じて、何らかの形で関われる柔軟で多様な選択肢を用意することが出来た。まずは共同コールセンターの行うサービスを3種類に分け、任意に選択できるようにした。
① 配車室代行サービス このサービスは新生活様式定着によるタクシー移動需要の減退、さらに乗務員不足による稼働の低下、配車室人員の老齢化と不足、そして旧来のデジタル無線配車システムの老朽化という状況の中で、相対的な配車ランニングコストの上昇、既存人員の労働時間超過や連続勤務、さらに場面によっては経営陣も配車業務に従事せざるを得ない局面もあり、また事業者によっては配車業務継続のための新たな投資を迫られている。そうした中で配車業務自体を外部委託し、コストダウンと人員不足を補うニーズが強く発生していることから、その要望に静岡TaaSとして応えて行こうというものである。
特にポイントとなるのは、共同コールセンターでも各社の会社名(ブランド)、電話番号、地区割や配車ルールを基本的にそのままで運用できるようにしようということである。
配車の外部委託は現在、流行になっているが、現実はその地域の地理不安内や運用システムの変更から配車率が3割近く下がってしまうケースもあると聞く。その点静岡TaaSでは地元でもあり、また運用の仕組みも従来のものを継承することで、かなりカバーできるのではないかと思っている。
一方で、共同コールセンターで果たして各社の仕組みをそのまま継承できるのか、という疑問も生ずるとは思うが、幸いにも同一メーカーの配車システムを使っている事業者が多く、その点ではシステムの力で柔軟に対処できる目途がついている。また一部の時間帯だけでの代行委託も可能としている。
② 共通電話&タクシー注文アプリ(任意参加) このサービスは地域最適マッチングプラットフォームとしての静岡TaaSの機能であり、サービスである。
①の配車代行サービスでは、基本として各社の車両に従来通りのルールで配車されるが、静岡TaaSの共通電話番号及び利用者のアプリから入った注文は、静岡TaaSに加盟する全タクシー車両から利用者に一番近い車両が配車される。それにより市内広域をカバーし、より多くの車両から選択できることで利用者の利便性が向上する。さらにタクシー注文アプリの利用率が高まれば電話受付スタッフを減らすことができ、配車コストを減らすことができる。
また、共通化により行政サービス(例:しずおかMaaSなど)や交通系検索サービス(例:乗換案内など)との連携がしやすくなって、外部との連携による事業者の負担も軽減することができる。これらが静岡Taaa会員であれは実配車ごとの費用負担で済む。
普及は徐々にではあろうが、利用者利便とタクシー事業者の将来コスト削減につながるサービスである。
③ 相互配車サービス(任意参加) ①の配車代行サービスは各社内で完結する配車サービスだが、仮に自社のタクシー車 両が利用者の要望エリアになかった場合、静岡TaaSの全体の車両から配車するサービスであり、利用者の利便性を向上させ、市内のタクシー業界全体での機会損失を防ぐことが目的だ。自社の仕事を他社に回した場合にはそれなりにインセンティブを受ける。
以上3つの共同コールセンターのサービスは任意に選択でき、また従来の配車システムや車載端末に多少の改造を加えれば そのまま援用できる。その意味で運用とコストの両面で共同コールセンターへの移行の障壁は大分下げることが出来るのではないかと思う。
需要の開拓サブスクモデルの挑戦
タクシー事業の生産性を上げるためにはマッチングの効率のみならず、潜在需要の開拓が大きな課題である。
今、全国各地でサブスクリプションモデルによる需要拡大のチャレンジが行われているが、これが利用者にとっても事業者にとってもウイン=ウインの関係にするためには、かなりの創意工夫が必要である。
まず基本的な観点として
⑴ タクシーの閑散時間帯を埋められるサービスであること
⑵ 高齢者や主婦などが簡単で安価に使えるサービスであること
⑶ 拡張性の高いサービスであること
⑷ サービスがシンプルであること
以上のことから静岡TaaSでは、実験的に静岡市内の東西2キロ、南北3キロのエリアを設定してテストサービスを実施することを提案した。
これがタクシー事業者にとって実質的な営収の増加につながるか、また利用者にとって定額のサブスク料を払っても十分なメリットがあり、会員が採算ラインまで増えるかは机上の計算では可能と出るが、実際はやってみないと分からない。或いは、やり方次第とも言えるだろう。この提案に対し、事業者の反応は半信半疑ではあるが、この新たなビジネスモデルを利用者と事業者の双方にとってメリットのある形にできなければ、新たな需要の開拓は難しいだろう。試行錯誤でのチャレンジをタクシー事業者との協業のもとにして行きたい。
DX時代における料金回収サービスの在り方
3点目の提案については、従来の紙チケット時代から電子マネーの時代に回収サービスが変化していく中で、回収業務のコストダウンを促進し、どのようなステップを踏んで無理なくDX時代に移行できるのか、またタクシー事業における電子マネーの在り方を提案したものである。以下その流れ図を示した。
いずれにせよ、今のタクシー業界が新しい世界にチャレンジしていかないと、残念ながら脱落していく事業者が頻発することになるだろう。既に静岡市内でもこの9月と10月で休業が1社、倒産が1社出ている。タクシー業そのものが無くなりはしないが、数が減少すると結局は市民の足が場面によっては確保できず、暮らしにくい世界になってしまう。静岡市の市民生活の移動の足の確保のためにも、静岡TaaSのチャレンジは是非とも続けたい!
(2021年10月21日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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