タクシージャパン 掲載コラム

TaaS配車受託業務挑戦の顛末

配車受託業務の開始延期!

2月14日に予定していた静岡TaaSの電話受付配車業務の受託開始に向けて、静岡平和タクシーと駿河交通の2社との間で準備をしてきた。各タクシー会社の電話番号や会社名はそのままに、1カ所の配車センターで各社の運用ルールに基づいて電話の受付と配車をそれぞれの会社の車両に行うと言うシンプルな配車業務の受託である。
両社の電話受付数と配車回数を合計しても1社の配車スタッフで賄える数であり、また両社の顧客データおよび車両を同一システム内で一元化することにより、タクシー車両の相互配車が可能になり、コストダウンと顧客への配車能力を高めることが出来る。
そうしたことから、静岡TaaSとして静岡地域における最適配車のプラットフォームを実現するための第一歩を目指したものであった。
しかしながら、残念なことに土壇場になって、この2社による静岡TaaSの共同配車は、一時的に延期を余儀なくされることになった。
延期の理由としては、それなりにステップを踏んで準備をしてきたつもりであったが、現場の配車スタッフの賛同と協力に対する詰めの甘さがあり、特に他社の電話を受けて配車することへの抵抗感、さらに電話が重複してかかって来た時の対応などで、充分な理解が得られていなかったことが挙げられる。
また、不幸なことに駿河交通において昼間の配車業務や運行管理を担ってくれていたスタッフが急遽、現場業務から離脱することになり、駿河交通の運行管理体制そのものを立て直さなければならない事態となってしまった。この局面で無理に共同配車を開始すると顧客に迷惑を掛ける事態も生ずる恐れがあることから、予定されていた無線配車設備の移設工事も中止し、共同配車は一旦延期することになった。

何が問題であったか?

このようなことになってしまった原因の根本は、私の見通しの甘さに尽きる。
両社の受注電話数や配車回数からすれば、両社が導入している現状のコンピュータ配車システムで、移行期は別として1社の配車スタッフだけで十分に配車業務に対応できると考えていた。この考えは今でも変わらないし、これからの配車センターのスタッフはできるだけ少人数に絞り、コンピュータ音声による受注(IVR)やスマホアプリを使った体制に変えて行かねば存続は危うい、と思っている。
確かに従来の仕事よりも業務量が増え、また慣れない顧客や乗務員との間で配車業務をすることは新たな負担であり、抵抗があることは心情としては理解できる。しかし、一方で現実の受注電話数や配車実態がコスト割れを起こしていることも現実である。このままでは配車業務の継続は難しい、が、顧客の配車注文の機会確保は地域の公共交通を担うものとしての義務でもある。

改めての共同化、DX化の必要性

このジレンマを克服する道は、共同化=大規模化とDX(デジタルトランスフォーメーション)化しかないと改めて感じている。今回の事態に対処するために、私自身も駿河交通の電話受付と配車業務の実務に、慣れないながらも関わってみて、あらためて共同化とDX化が必要だと強く、強く感じた。
電話受付業務については、暇な時間帯と、時に忙しい時間帯の差が激しく、一方で、配車業務については時間帯によって配車可能なタクシー車両が少なく、結局は配車をお断りするケースも多い。

やはり配車できるタクシー車両の絶対数が多くなければマッチング確率が低く、お客様にも迷惑をかけ、タクシー事業者としても機会損失が常に発生している状況となってしまう。
先日も、私がタクシー乗務をしている際に、駿河交通が地盤とするエリアから遠い地域で実車になった時に、お客様を降ろした地点から数十分をかけて地盤とするエリアに戻って来たことがあった。こうした時に空車になった地域の顧客がタクシーを必要とし、かつ、その地域を地盤とするタクシー会社に空車がなかった場合には、そうした車両が配車されるような仕組み(共同配車による相互配車)があれば、実車時間率が高まり、生産性が上がることになる。このような初歩的な仕組みを、まずはDX化の第一歩として実現したい。この相互配車の効率性は、共同化の規模が大きくなるほど高まる。確かに自社の顧客を他社のタクシーに配車することには抵抗があるかもしれないが、顧客に配車する車両が無いと断るよりは顧客利便にとっても良いことだし、逆に他社の顧客を自社のタクシーに配車されることもあり、相互補完のお互い様だとも言える。

ギリギリの配車スタッフ

その一方で、各社の配車室のスタッフもギリギリの人員で運営されている。タクシー会社の規模が小さく、受注電話数や配車数がどれだけ少なくても、基本的には24時間体制で配車スタッフの交番は組まれており、またその業務も現状ではかなりの熟練を必要とする。仮に体調が悪くて休もうと思っても、代替要員が存在せず、無理をしてでも出勤せざるを得ない現状の中では、そのストレスも大きい。こうした面でも、共同化やDX化による状況の改善は喫緊の課題である。現状の労働環境では、新たな配車スタッフを雇い入れることはかなり難しい。共同化による規模の拡大と電話受注体制の整備、IⅤRあるいはスマホアプリによる配車システムへの移行を準備していかないと、人手が集まらないことによるタクシーの受注・配車システムの崩壊が間近に迫って来ることになる。
こうした事態は地方の多くのタクシー事業者にとって共通の課題であり、タクシー事業者によるこの課題の解決の試みもすでに行われている。都市部の大手、あるいは大手無線グループではIVRもスマホアプリによる受注配車システムは既に当たり前になり、利用者への普及も進んでいる。問題は地方の中小のタクシー会社にとっては規模面、人材面、資金面、利用者の理解の面で大きな障壁があり、なかなかその突破は難しいのが実情だ。

再挑戦、共同配車開始!

今回、共同配車の第一歩が残念ながら頓挫したが、これにめげることなく、明らかになった課題を一歩一歩、克服して再挑戦したい。そのためには、静岡TaaSが、たとえ1社であっても電話受付配車業務の委託を駿河交通から受け、電話回線の繁忙時の回線コントロール、IVRの試験実施、静岡TaaSのスマホアプリの先行実施を行い、地域プラットフォームとしての静岡TaaSの共同配車業務の姿がどのように運営されるのかを、システムオリジンの協力を得ながら、いわばショールームとして実現したい。
また静岡市タクシー事業協同組合の事務所がある沓谷のビルの2階に静岡TaaSの配車センターを新たに開設するプランは、その改造工事も含めて予定通り実施し、静岡市内のタクシー事業者に実際の運用イメージを持ってもらい、共同配車実現の可能性を感じてもらいたい。
(2022年2月23日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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