タクシージャパン 掲載コラム

新サービスの誕生はいつも難産

「タク放題」会員獲得に向けて

いよいよタク放題のサービス開始が迫って来た。7月1日の午前9時半から静岡市役所隣の葵スクエア・イベント広場で「タク放題」の出発式を行い、このサービスがスタートする。7月から12月までの6カ月間の静岡市葵区北西部における実証実験を経て、「タク放題」を静岡市全域に拡大していくことが夢である。
 6月3日から街頭での「タク放題」会員獲得活動を開始した。まずは該当地域の1万5000世帯に5月26日から3回に分けて新聞の折り込み広告、さらにポスティングによる延べ5万枚ほどの宣伝チラシを配布した。そして該当エリア内の静岡市中心街において、派遣社員も活用して10日間、延べ90人のスタッフを投入してチラシの配布と募集型企画旅行「タク放題」の説明と会員の獲得活動を行った。
 私にとってはこうした最終消費者に直接、働き掛ける営業は初めてで戸惑うことが多かった。しかし、静岡TaaSの多彩な協力者のおかげで宣伝のぼりやパネル、パンフレット、CMソングなど利用者にアピールするツールなどを準備でき、道具立てとしてはそれなりの形を作ることが出来た。
 このエリア・時間限定でのタクシーの乗り放題サービスが今話題のサブスクモデルであり、また買い物難民や免許返納者など高齢者の移動手段の確保という社会性があるテーマからなのか、地元TV局3社が次々と取材に訪れ、ニュース4番組、延べ時間15分に渡って放映され、それがYAHOOニュースやライブドア・ニュース、YouTubeなどでも拡散され、帯広や九州、新潟など全国からも問い合わせがあった。また地元の商店街やデパートなどからもアプローチがあり、チラシ配布、会員獲得のブース設置場所を提供いただいた。静岡市の行政当局や地元の県会議員、市会議員の方々からも関心があり応援しているとのメッセージをいただいた。
 これらは有難いことではあるが、問題はこれからである。この一カ月近い活動で一定数の会員を獲得できたが、この「タク放題」のサービスを持続するためには、もっと多くの方に会員になってもらわなくてはならない。今回は実証実験ということもあり、募集する会員は400人限定だが、少なくとも実証実験期間中の6カ月でこの数字にまで達する必要がある。こうしたサブスクモデルのサービスは一定のボリュームが確保されることによってのみ、効率化とリスク分散が可能になる。

利用者による口コミが鍵

こうした新サービスは社会的認知が進み、良いサービスだと評価されたとしても、実際にそのサービスに加入するまでにはタイムラグがある。特に新サービスはメリットもあるが、一方で予想できないリスクも考えられる。特に静岡市民は慎重だと言われており、また高齢者が主要な対象となるので、会員となる決断にも家族との相談など時間がかかる。そう意味でこのサービスの普及は遅々となることを覚悟しなくてはならない。
 実際にサービスがスタートし、一部の(流行に敏感で消費行動が早い)アーリーアダプターがサービスを利用し、そのメリットを享受し、それを口コミとして発信するようにならなければ、急速な普及は難しいだろう。その意味で様々な課題はあるが、まずサービスをスタートすること、そして遅々たる歩みであっても着実にそのサービスを継続し、特にサービスの質の面での改善を図り続けることが大事だと思われる。そのためには資金面の確保がポイントと思われるが、幸い、協力者のお陰で当面のチャレンジは続けられそうだが、サービスの社会性も鑑み、クラウドファンディングも是非検討して行きたいと思う。この4月と6月に新たに静岡TaaSに参加してくれたスタッフも非常に士気が高く、有能で、厳しい活動が続いているにも関わらず頑張ってくれているので、必ずや結果が出てくると信じている。

タク放題の配車システム

一方で、限られたタクシーの借上げ台数で「タク放題」の会員の移動需要を満たすためにはタクシーの効率的運用が必須となる。今回の実証実験ではエリアの広さ、交通事情、価格、借上げ台数、サービス時間帯など様々な課題の最適解を探ることが目的でもある。そして結果としての利用者の大きな満足に帰結するべく、そのバランスを図ることである。その際に大きなポイントになるのは「タク放題」の配車システムである。効率よく注文を受け、適切に配車車両を選択し、配車センタースタッフ、乗務員、お客様に使いやすいシステムを提供する必要がある。今回「タク放題」用に開発されたシステムオリジンのシステムは、コンピュータが最適車両と配車時間を判断、配車スタッフに指示する仕組みで、スタッフの負担を大幅に削減するものである。また、タクシーに搭載された配車タブレット「テレハイ みちびき」により、乗務員も乗車地のみならず降車地にも誘導されるので、道に不慣れな主婦など副業ドライバーでも運行可能なシステムになっている。限られたエリア内で利用者に乗車地、降車地を指定してもらうので、タクシーの効率的な運用が可能となる。
 その結果、利用者にとってはリーズナブルな価格で使い放題のタクシーの利用が可能となる。また高齢者向けに電話による「タク放題」の注文ができるが、既にアプリ版も開発されている。アプリ簡単に注文ができ、また配車された車両の現在位置の確認も可能である。さらにこのアプリには、あらかじめ「タク放題」の電話番号がセットされており、アプリからワンタッチでの電話注文が可能となっている。その際、位置情報が自動的に配車センターに送付され、現在地を説明する必要がなく、高齢者にとっても便利な機能である。さらにこのアプリは「タク放題」だけでなくタクシーの通常の注文も可能なので、静岡TaaSの共同配車に参加するタクシー会社への注文も可能で、会社を問わず、利用者に一番近いタクシー車両が配車されという仕組みである。ちなみに「タク放題」も組み込まれたこのアプリの名称は「タク呼び」となっている。iPhoneとアンドロイドのアプリ検索からダウンロードが可能だ。

共同配車化の推進

先の「タク呼び」というアプリは、静岡TaaSに加盟するタクシー会社の共通、共同アプリという位置付けである。このアプリが威力を発揮するためには、静岡市内のタクシー会社の共同配車化が進み、利用者がどの場所から注文を発しても近くにタクシーが存在するぐらいの広がりが必要である。共同配車化は各社の実情が違うので一律な形では無理だが、静岡TaaSでは業務委託、相互配車、または各社の配車室、スタイルを維持しつつ、クラウドによる各社の車両位置と動態の共有による、実質的な共同配車化など多様な選択肢を用意している。そのための第一歩として6月21日、静岡市のタクシーチケット組合がある沓谷のビル内に共同配車センターの受け皿を開設し、静岡市内での共同配車化のためのプラットフォームを準備した。
 一方、そこからの遠隔点呼、ひいては将来の一般社団法人静岡TaaSによる共同点呼が可能になるように、先行して遠隔点呼の設備を東海電子の協力で準備した。タクシー事業の生産性を向上させるという我々の目的は、様々なプロジェクトを複合的に組み合わせないと実現できない。「タク放題」と「共同配車化」はその核であり、その推進に一層努力して行きたいと思う。
(2022年6月26日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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