必要とされる多言語対応
LanguageBusinessJapan2017
海外から日本を訪れるインバウンドのお客様が飛躍的に増えている。
昨年2400万人を超えたインバウンドの旅行客が、今年は2800万人を超えると言われている。そして政府・官公庁の目標は、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催年には4000万人、さらに2030年には6000万人とのこと。もっとも海外からの旅行客が世界一のフランスでは、すでに8260万人なので、観光資産が豊富な日本としては、あながち不可能な数字ではないと思われる。問題は宿泊施設や交通機関などの受け入れ態勢であろうが、やはり言葉の問題も大きな問題である。
東タク協もTSTiE(英語による東京観光タクシー)乗務員を2020年までに300人養成する目標を掲げており、またスマホアプリの多言語化など、インバウンド客の増加に備えている。
私もTSTiE乗務員になるべく英語の学習を進めているが、たまたま12月13、14の両日、都内池袋の「サンシャインシティ文化会館ビル」で、「グローバルビジネス支援EXPO、インバウンド言語支援EXPO」と銘打った「LanguageBusinessJapan2017」が開かれたので参加してみた。セミナーと展示ブースの併設の催しだったが、現在における最先端の音声翻訳、機械翻訳の状況を知ることができた。
多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」
初日、朝一番のセミナーでは、「『言葉の壁』をなくすための研究開発の最前線」というテーマで、総務省国際戦略局技術政策課の増子課長補佐と情報通信研究機構(NICT)先進的音声翻訳研究開発推進センターの隅田副センター長からプレゼンテーションがあった。
ひとつは2014年4月に策定された「グローバルコミュニケーション計画」(http://www.soumu.go.jp/main_content/000285578.pdf)で、「世界の『言葉の壁』を無くしグローバルで自由な交流を実現するために、音声翻訳技術の多言語化・他分野化を推進し、2020年までに社会実装を目指す」とのこと。
もうひとつは、その具体的な方策のひとつとして「VoiceTra」という多言語音声翻訳アプリの無償提供である。このアプリは、昨年12月に中国の上海に一人で旅した時にスマートフォンにインストールしていて、現地では随分と助かった。日本語で話した内容(音声入力)を世界31言語に翻訳し、16言語については音声出力してくれる!
もちろん文字入力、文字出力も可能である。長文の文章は無理だが、通常の会話で言葉を交わす程度の文章は、音声でも文章でも充分意思が通ずる、優れものである。
NICTが長年かけて開発してきたこのシステムは、最近ニューラルネットワーク(深層学習)を活用した機械翻訳の実用技術を取り入れ、現時点では日本語と英語との間のみのようだが、その翻訳精度は格段の進歩があったとのこと。
機械翻訳の現段階
コンピュータによる機械翻訳の歴史は、1970年代の後半から始まっているが、当初は文法や単語の意味などルールを単純に記憶させ、翻訳を試みていたに過ぎず、その精度は非常に悪く、使い物にならなかった。しかし、90年代以降は統計翻訳という手法がとられるようになった。統計翻訳とは「大量の対訳データを解析し、その統計結果から適した訳し方を割り出す仕組み」であり、ルールベースの翻訳よりはかなりの精度の向上があったが、しかし大量の対訳データの蓄積を必要とし、分野によってはとんでもない翻訳結果になることが多いらしい。
そして現在では、グーグル翻訳が昨年の6月から採用を始めたニューラルネットワークが、機械翻訳の世界を飛躍的に進化させている。ヘンテコな翻訳が、まま(かなり?)あった機械翻訳が「自然な文の流れを分析して翻訳できるようになった」とのことである。人間の脳に近い仕組みで翻訳するようになったとのことだが、何故そうなのかは、私の頭では理解できそうもない。とにかく、機械翻訳の世界はいま激変の時代であり、スーパーコンピュータやら量子コンピュータ(グーグルはすでに導入済)やらの飛躍的な進歩により大量のビッグデータを処理し、AI(人工知能)の精度、スピードも上がっているので、機械翻訳の世界も侮れない!実際グーグルの翻訳ソフトを使ってみると、1000文字ほどの私のブログをほぼ瞬時に英文に訳してしまう!残念ながら総務省傘下のNICTの「みんなで翻訳」ソフトとの翻訳スピードの違いは圧倒的である。翻訳の質については、私には評価能力が無いのでなんとも言えないが、日の丸翻訳システムの一層の踏ん張りが期待されるところだ!
英語学習は無意味?
ところで、コンピュータが瞬時に同時通訳の様に音声翻訳までしてくれるとしたら、今頃TSTiEを目指して、ノコノコと英語を勉強している私の立場はどうなる!?
もちろん、今すぐにそういう世界が実現する訳ではないが、果たして他の国の言語を勉強することの必要性は無くなるのだろうか?
ある面ではイエスであり、ある面ではノーとも言える。
多分コミュニケーションの質と深さをどこまで目指すのかによるのだと思う。
単純に買い物をしたり、交通機関を利用したり、定型化されたビジネス情報の交換であれば、かなりの部分がこの機械翻訳の世界でいけるのではないかと思う。
しかし、人間の持つ感情や精神世界のことになると、非言語的なコミュニケーションも含め機械翻訳では及び得ない領域があると思われる。例えば文学書の翻訳は機械翻訳では難しいと言われている(もっとも最近は、コンピュータが小説を書くという事例もあると言うが…)。人間の持つ「感情の鮮度」を機械翻訳で瞬時に伝えるのはやはり至難の業だと思う。
結果として、自分がそういう深い領域自体のコミュニケーションができるかどうかは別として、引き続き、少しずつ英語の学習を継続して行こうと思う。
(2017年12月20日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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