しずおかMaaSのサービスを担う!
しずおかMaaSの実証実験
私が代表理事を務める一般社団法人静岡TaaS(静岡市)では、今年7月から開始した6カ月間の実証実験「タク放題」を、来年6月まで延長する。このことは前のコラムでも書いたが、加えるに、4年間の実績を持つ「静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト」(しずおかMaaS)からの業務委託を受けて、来年1月16日から6月末まで「しずおかMaaS のりあいタクシー」を手掛けることになった。
静岡TaaSが運営する「タク放題」は、通常のタクシーサービスを、旅行業法を活用して募集型企画旅行としてアレンジし、乗り放題タクシーとして運営しているが、今回の「のりあいタクシー」は同じ募集型企画旅行ではあるが、乗合であるが故に運行タクシー事業者が道路運送法21条の許可を取得し、静岡市地域公共交通会議の承認を得て運用する。
「タク放題」と同様に、タクシー事業者から車両を借上げ、10時から17時まで、「タク放題」と全く同一エリアで乗合により運行する。さらに特徴的なのは「のりあい」という共通のサービスながら、価格とサービスメニューの多様化を図っていることである。「タク放題」では65歳以上が月額8000円、65歳未満が同1万円という年齢による区分はあるが、単一メニューである。それに比べて、今回の「しずおかMaaSのりあいタクシー」では、月額定額の「のりあい放題」に加え、アプリ限定ではあるが「のりあい回数券」、そして乗車ごとの「のりあいつど払い」と3種類用意されている。
そして「のりあいタクシー」は乗合での運行ということで、「タク放題」より2割ほど安く価格が設定されている。「のりあい放題」では65歳以上が6500円、未満が8000円であり、75歳以上あるいは免許返納者であればそこからさらに1000円を割引し、最安で5500円となっている。また、「アプリ限定のりあい回数券」は乗車12回で4000円、「のりあいつど払い」でも1回500円でエリア内を移動することが出来る。この「つど払い」にも割引が用意されており、アプリで配車注文すれば50円引き、さらに「得スポ」という仮想停留所(乗降ポイント)を利用する配車注文をすれば50円引きになり、両方を併用した場合には1回400円となり、かなりお得なサービスとなっている。
また、高齢者向けだけではなく、子育て世代や家族会員の割引も設定されており、広範な世代への魅力あるサービス内容となっている。
乗合運行という制約はあるが、果たしてこうしたサービスと価格の多様化に対して静岡市民はどう反応するのか、非常に興味のあるところである。
何故しずおかMaaSのサービスを担うのか?
実はこの「しずおかMaaS」のサービスは、見方によっては、静岡TaaSのサービス「タク放題」のライバルであり、競合するものである。何故そのようなサービスの業務委託を静岡TaaSが受け、運営を担うのか?
もちろん静岡TaaSの設立当初より、静岡TaaSは地域の交通全体の統合を目指す「しずおかMaaS」の部分であり、かつ中核を担うという位置付けであり、「しずおかMaaS」との連携を目指し、「しずおかMaaS」の技術会員として登録をしていたという経緯はあるが、しかし、それ以上に、静岡TaaS自身が会員獲得・増加のための価格、サービスメニューの多様化を図り、その成否を検証してみたいという意欲を持っていたことがある。
実際のところ、こうしたサブスクモデルの成否は、一定の会員数が確保できるか否かが肝である。とりわけ高頻度ユーザーだけでなく、低頻度ユーザーも参加してくれるような価格、エリア、サービス内容、供給体制のバランスを見極めることが重要な意味を持つ。
「タク放題」の今年7月から12月までの第一次の実証実験は、とにかくサービスを始めることに意義があった。
しかし第二次の実証実験では、「持続可能なサービスとなるための解を見つける」ことが課題となる。今回の「しずおかMaaS」の実証実験の企画が、まさに、乗合運行でのサービス、価格帯の多様化、対象世代の拡大など各種の実験的なテーマを内包しており、ビジネスとして実装するための解に近付けるのではないかと期待している。
「しずおかMaaS」が実証実験として費用を負担してくれるのは最初の2カ月だけだが、静岡TaaSとしてもそれなりの結果を出せると判断し、半年間の実証実験を担うことを決断した。そして「タク放題」、「のりあい放題」、「のりあいつど払い」、「アプリ限定のりあい回数券」を「タク放題サービス」の四つのサービスと位置付けて運営し、利用者がどのような反応と選択をするのかを検証してみたいと思う。そしてその経験の教訓を来年7月以降の「タク放題サービス」の継続に如何に結び付けていくかを検討したい。
「タク放題」の現況と課題
「タク放題」は7月から始めて12月30日に第一次実証実験が終了する。実在の会員数はすでに50人を超え、利用回数も5000回近くに達する。しかし目標の400人には遥かに及ばず、収支という点でも課題を抱えている。また、車両の供給面でも借上げ方式の限界を抱えている。繁忙時間帯では車両が足りなくなり、暇な時間帯では車両が遊んでしまう。仮説では狭いエリアでそれなりの顧客数とそれなりの車両数が投入されれば、効率の良い運行ができ、それを示す実車時間率が高まり、6割以上の実車時間率が目指せるはずであった。しかし、残念ながらすべての前提となる、「それなりの会員数」を確保できなければ、その仮説も成り立たない。また、時間帯別の需要の変動を平準化する試みも必要となる。さらに、供給面においても時間による借上げ方式とメーター方式の併用、エリア外への運行、複数のエリアの設定とエリア間の運行、運行時間帯の拡大など、市民から寄せられている要望にどう応える仕組みを作れるかなど課題満載である。
いずれにせよ、短期間の実証実験では答えの出せない深い課題である。来年の6月までにそうした課題の答えを出せるかは分からないが、少なくとも教訓ぐらいは出せるようにしたい。今回の「しずおかM aaS」の実証実験を担うことがその第一歩だと思う。
共同配車の成否がカギ
「タク放題」サービスの供給体制の成否のひとつは、エリア内にいる多数のタクシーを利用者への配車に臨機応変に配車でき、無駄な迎送時間、空送時間を減らすことである。また一方、車両も「タク放題」の仕事と一般の仕事を併用できることである。そのためには配車システムが一元化されること、すなわち、共同配車が実現することが、この「タク放題」を含むタクシーの供給システムの効率化の決定的なカギであると思う。現に、たかだか2社の共同配車ではあるが、静岡TaaSで受託している静岡平和タクシーと駿河交通の共同配車では、タクシーが相互配車という形で車を融通し合い、利用者にも乗務員にも喜ばれている。共同点呼の制度化も含め、アプリやタブレットなどの導入によるDX化は時代の流れではあるが、なかなか一挙には進まない。忍耐心と資金力が問われるところである。
(2022年12月20日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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