タクシージャパン 掲載コラム

のりあいサービスがスタート

しずおかMaaSのりあい放題がスタート

いよいよ静岡型MaaS基幹事業実証プロジェクト「しずおかMaaSのりあい放題」が1月16日からスタートした。
 当日は朝から地元SBSラジオの生放送番組で「しずおかMaaS」のコンソーシアムのメンバーである静岡市交通政策課の担当者へのインタビューがあり、さらにテレビ静岡や静岡第一テレビの取材と続いた。
 タクシー車両による実証実験「のりあい放題」サービスの運行業務を受託している、私が代表理事を務める一般社団法人静岡TaaSの配車センターの様子に加え、配車エリア内でパイロットユーザーが実際に「のりあい放題」を注文し、さらに他の乗客が相乗り(乗合)する様子が取材された。その内容が当日の静岡第一テレビのニュース番組で放映され、さらに1月18日のテレビ静岡の番組「ただいまテレビ」の中で、いま注目すべきワードを特集するコーナで「のりあい放題」として4分間に渡って取り上げられた。
 これらにより、静岡市民への広報としては、まずまずのスタートを切ることが出来たが、サービスの市民への浸透としては始まったばかりと言える。

もう一方の「タク放題」サービスも昨年の6月以来13回、延べ22万枚を超えるチラシの新聞への折込みを行い、またテレビ局の取材も7月1日の出発式のイベントを含めて4局に取り上げてもらった。サービス内容の浸透度はそれなりのレベルと期待するのだが、実際には残念ながら「知らない」という市民が多い。
 さらに、サービスの認知と実際の会員加入のギャップの原因も、開始から6カ月が経過した今、深く考えなければならない問題だと思っている。
今回の「のりあい放題」サービスが、価格の面とサービスの多様性の面で、その原因解明のヒントになればと思う。

新システムの立ち上げは試行錯誤の連続

静岡TaaSで取り組む「タク放題」も、サービスを始めた当初は運用上の混乱が避けられなかった。
 「タク放題」の注文受付・配車システムは、実はシステムオリジンのタクシーの受注配車システム「テレハイAVM」に「タク放題」の自動配車の仕組みを組み込んだものである。また配車センターのスタッフも従来のタクシー配車のスタッフが兼務で当たっている。
 通常のタクシー配車は迎車先のみ顧客から聞いて配車指示をしていた。しかし「タク放題」では迎車先のみならず降車先を聞いて、それをセットして自動配車をかけて、コンピュータ側で最適車両を選び、タクシー車両側の車載タブレット端末「みちびき」に迎車地と降車地のデータを送る。配車センターのスタッフのみならず乗務員も、やはり新しい運用には当初は戸惑ったが、半年を経過した今、この仕組みは極めて順調に稼働している状況だ。
 繁忙時間帯には狭いエリアと言うこともあるが、1台の車両が1時間に5回の乗降車をこなすこともある。配車センターも乗務員もそして利用者も、「タク放題」の運用に慣れて習熟してきていると言える。
 一方、1月16日から始まった「のりあい放題」では、配車センターでの電話受付の場合、「タク放題」のような乗降車地の入力だけでなく、「タク放題」には無かった予約時間や同乗者の有無、運賃が安くなる仮想停留所「得スポット」の入力が時に必要となり、さらに全ての項目の入力後に「自動配車」で配車できる車両と時間が特定され、利用者に回答するようになっている。

しかし、スマホアプリ「タク呼び」の「のりあい放題」対応版からの配車受注であれば、これらが全て自動化され、配車センターのコンピュータと利用者のアプリとのやり取りだけで完結する。こうした「のりあい放題」サービスの仕組みも「タク放題」と同様に、既存のタクシー配車システム「テレハイAVM」に組み込まれ、一元化されている。このことは、システムオリジンの「テレハイAVM」と未来シェアのAI便乗サービス「SAVS」が連携したことで実現された。

タクシー配車システムとサブスク・のりあいの連携

この既存のタクシー配車システムとサブスク・乗合のシステムが連携、一元化されることは、今後のサービスの継続・発展に大きな意味を持っていると思われる。というのは、現在の「タク放題」(サブスク)車両と「のりあい放題」(乗合)車両は、ともに少数特定の時間借上げで運行されているが、この方式では繁忙時には車両が間に合わず、また閑散時には車両が無駄に待機するという問題が発生し、利用者にも迷惑をかけ、また車両の効率的な運用という面でも課題がある。この課題については、通常のタクシー運行とサブスク・乗合運行を、一元的な配車システムの下に需要に応じてフレキシブルに運用対応できれば、かなり解消できるはずだ。
 まだシステム的には、このような運用対応を実現するためにいくつかの課題があり、作り込みが必要になるが、しかし、既存のタクシー配車とサブスク・乗合の配車が一つのシステムで運用できたことによって、解決への道が開けたのではないかと思っている。
 さらに地域における共同配車化(地域全体最適配車のプラットフォーム)を構築することによって、現在の利用者が必要な時に必要な配車を受けにくく、タクシー事業者や乗務員にとっても大きな機会損失となっている問題を克服できるのではないか、と思う。もちろん共同配車化は必ずしも同一配車センターに同居する必要はなく、クラウド上で連携をすれば、仮想の世界での共同配車化が可能である。
 実際に配車室の現場に入ると、乗務員不足によって配車できる車両が極端に不足し、電話で配車注文を受けても断らざるを得ないケースが非常に多く、忸怩たる思いにかられる。これが多くの車両を抱える地域全体の共同配車のプラットフォームであれば、かなりの確率で配車要望に応えることが出来る。
早朝の配車など1社では応えられない要望も、プラットフォームであれば応えられる確率が高くなる。現在、静岡TaaSで配車業務を受託している2社での共同配車でさえ、相互配車という形で、単独では配車できなかった利用者への配車を実現している。
 確かに共同配車の難点として、乗務員のサービスの質のバラツキによるトラブルが懸念され、そうした課題は乗務員教育によって是正されねばならないが、しかし、現時点での最優先のサービスは必要な時にタクシー車両が間に合うことだとすれば、地域における配車プラットフォームの構築と拡大は喫緊の課題であると思う。
 地域の市民の足の確保とタクシー事業の生産性の向上を実現するための基本的構図は、システム面も含めて出来上がりつつあると思う。しかし、それを実現するためには、かなりの労苦と資金、協同、神の御加護が必要と思われる。

カニはおのれの甲羅に似せて穴を掘る

この格言は、現在の実力以上のことは試みるな、という警句だ。しかし書籍「経営戦略の論理」(伊丹敬之著)には新たな成長とそのための新たな実力を獲得するためには、おのれの甲羅以上の穴を掘らねばならない、とある。当然、困難と危機に遭遇するが、その中でしか本当の成長は実現できないと説く。当然、破滅する可能性もあるが、こうしたチャレンジを無くして「いままでにない世界」は実現できないと思う。
(2023年1月25日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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