タクシージャパン 掲載コラム

「コロナ後」が始動

新潟県ハイタク経営研究会

 新型コロナウイルスの感染法上の分類が5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられることが政府から発表され、マスクの着用も個人判断となり、「世の中の空気」も大分変り始めた。特に強く感じられるのは、今まで軒並み多人数が集まる集会やイベントがオンラインのリモート方式だったものが、実際に顔を合わせてのリアルな集まりに変わってきたことだ。
 コロナ前には、なかなか進まなかったオンラインでの業務による在宅勤務やリモートでの会議が、半ば強いられた形ではあったが一挙に進み、時間的にも経費的にもその恩恵に浴した企業や個人は多い。
 しかし、その一方で、直接に顔を合わせての交流や議論の再開によって、オンライン方式では伝え切れないものがあることも改めて強く感じている。
 私にとっても直接に対面できる機会が増えて来ており、3月9日には新潟県ハイタク経営研究会の会合において「静岡TaaS」の経験について話をする機会をいただいた。新潟県長岡市にある三越タクシーの大会議室において1時間もの時間を用意していただき、「静岡TaaS」の設立趣旨や経緯、教訓を述べさせてもらった。久しぶりの30人を超える参加者に少しあがってしまって上手く話せなかったが、貴重な機会を与えて下さった同研究会の会長である三越タクシーの野村修士社長に感謝したい。また、夜の懇親会の席では、システムオリジンの30年来のお客様である新潟県のタクシー事業者と懇談ができ、やはりオンラインでは味わえないリアルなイベントの良さを改めて実感した。
 また、このイベントへの参加を仲介してくれたシステムオリジン中日本カンパニーのメンバーも参加しており、二次会では久しぶりの懇親を深めることができた。実は前日、新潟県に隣接する長野県の長野市にある長野観光自動車でシステムオリジンの新配車タブレット「テレハイみちびき」の稼働状況も見学することができたが、同社は昨年の10月頃に稼働を始めたシステムオリジンのパイロットユーザーであり、同社の村田部長や伊藤氏の話も聞いて、順調に立ち上がっていることに安心もし、また感謝もした。時代が、タクシー無線や電話注文からIPタブレットとスマホによる注文へと大きく変化する局面で、その過渡期に対処するのはタクシー事業者やベンダーにとってなかなか難しい面があるが、同社のようにチャレンジ精神で取り組みを続けてもらえるのは有難い。

第32回チームネクストセミナー合宿

リアルな開催と言えば、3年に渡ってオンラインでのセミナー開催を強いられてきた「チームネクスト」も、ようやく泊りがけの合宿形式でのセミナーと現場見学会を開催することが出来た。3月16日と17日の二日間に渡り、2年前から運行されている自動運転バスで知られる茨城県猿島郡境町において、二つの講演と自動運転バスの試乗体験が行われた。久しぶりのリアル開催で、全国から20名ほどの参加者があり、恒例の泊まりがけでの懇親と近況報告もあった。二つの講演はいずれも興味深く、ひとつは昨年11月に、元トヨタ自動車副社長の栗岡莞爾氏との共著で出版した「地域格差の正体」近藤宙時氏の「高速道路定額化推進と高速道路定額化のタクシー観光への影響」、もうひとつは、そらとぶタクシー株式会社の代表取締役である寶上卓音社長による「次の100年へ羽ばたこう!2025Sky Taxiの実現」というテーマであった。
 特に、そらとぶタクシーの寶上社長は、大阪市住之江区のタクシー事業者である大宝タクシーの取締役であり、いわばタクシー事業者が自ら2025年開催の大阪万博に向けて「空飛ぶタクシー」(有人の旅客型ドローン)を飛ばそうという、非常に大胆でチャレンジングな試みで驚いた。
20代の若き双子の社長と副社長が率いる会社「そらとぶタクシー」は、元兄弟デュオの歌手という異色の経歴ながら、ドローンの世界の飛躍的な進歩を背景に、夢みたいな「空飛ぶタクシー」を広い視野と現実的な感覚で実現しようとしている。とにもかくにも「タクシー」という泥臭い世界から、こうした最先端の事業にチャレンジしようとする人物が出てくること自体が新鮮な驚きであった。
 今のタクシー事業における生産性の低さを、現在の枠組内で上げるために、試行錯誤をしている私には思いもよらない世界ではあったが、こうしたチャレンジングな試みが成功することを願わずにはいられない。

境町の自動運転の実際

チームネクストのセミナー合宿の二日目は通常、体験型のイベントが多い。今回も、境町において2年前から運行されている自動運転バスの体験乗車が行われた。3班に分かれ、二つのコースを実際に乗車した。
 路線と時刻表がある、いわゆる乗合バスそのものではあるが、運転席の存在しないフランス製のミニバスで自動運転が行われていた。但し、完全な自動運転では無く、運行補助スタッフが常に乗車しており、場面によっては家庭用ゲーム機で使うようなコントローラーを用いて操縦し、車両のコントロールをしていた。自動走行の割合は8割くらいだとのこと。運行の費用は境町が負担しており、利用は無料である。そうした費用を捻出する町の仕組みがなかなか興味深く、47歳という若手町長の橋本正裕氏は、境町を一つの株式会社の様に運営し、全国で初めて運行を開始した自動運転バスを、単に鉄道が無い境町における町民の足を確保というだけでなく、そのPR効果を観光や企業誘致に結び付けているとのこと。
そして、その費用を捻出するために「ふるさと納税」をフル活用しているという。2014年の町長就任当時は3000万円程だった、ふるさと納税の額が、2020年には38億円を超えた。
 同様に静岡市民のラストワンマイルの移動の足を目指す静岡TaaSとしては、こうした自治体の豊富な資金はうらやましい限りである。地域公共交通機関は、民間の事業者が自律的に運営するのがますます難しくなっているが、こうした全国の人に支持される街づくり、市づくりとセットで運営されれば新しい可能性も拓けるのではないだろうか?

タク放題とのりあい放題の今後

昨年の7月から始めた「タク放題」、さらに今年の1月16日から静岡MaaSからの委託事業として始めた「のりあい放題」のサービスは実証実験として今年の6月まで継続される(もっとも静岡MaaSからの補助はこの3月15日で終了するが…)。
 そこで、7月以降をどうするのか、利用者や関係者からよく問われる。残念ながら現在の会員数、価格、エリア、運行時間のままでは継続不可能と、今のところ判断している。こうしたことの全面的な見直しと、特に採算面、タクシーの借上げによる供給の仕組みの改革なくしては、次への継続と発展は無いだろうと判断している。さらにこうしたサブスクモデル向けの乗務員の募集と確保も大きな課題である。が、逆にこの1年間に渡る実証実験により、こうした課題がより鮮明になった。その意味で、この一年間の試みが決して無駄ではなかったと信じたい。
一般乗用タクシーとサブスク、乗合のフレシキブルな共用は絶対に必要だと強く思う。そして、そうした仕組みの実現を目指して引き続き努力を続けたい。
(2023年3月22日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

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