タクシージャパン 掲載コラム

クルーズ船チャータータクシー手配の大きな可能性!

クルーズ船客へのタクシーチャーターは増えてきている

 前回に続き、今月のコラムも清水港に寄港する大型クルーズ船をテーマとしたい。 昨年の3月からコロナ禍が収まり、待望していた清水港(静岡市)への大型クルー ズ船の寄港が復活した。先月号のコラムで書いたように、 静岡県タクシー協会清水支部からの要請もあり、昨年の10月から清水港の日の出埠頭に、私が代表理事を務める一般社団法人静岡TaaSのチャータータクシー受付ブースを設置して、外国人観光客への観光コース案内およびチャーター運賃の確定とクレジットによる事前決済、そして乗務員に日本語による運行指示書を渡し、英語が不得意でも観光チャータータクシーの運行に支障が出ないような仕組みを作る試みをしてきた。
 昨年の10月から今年2月までの計5回のブース設置で は、1日に数件のチャーターしかなく、取り扱い金額も微々たるものであった。しかし3月以降はチャーター回数が増え、入港船によるバラツキがあるものの、多い時には午前8時から11時までの短時間の間に30件を超える チャーター申込を受け付ける日もあり、また、5時間を超える長時間・長距離のチャーターも多くなり、最大で8・ 5時間というものもあった。 従って、取り扱い金額も伸びてきており、昨年10月から直近5月27日までの累計数としては、ブース出店が18同、延べ262回のチャーター申込、取り扱い金額にして530万円を超えるところまで来た。静岡市内で営業する乗務員の間にも、平日や休日を問わずに昼間の暇な時間帯における貴重な高営収の仕事として口コミが拡がり、以前と比べてタクシー車両の供給力も上がってきている。
 静岡TaaSが設立当初から目指して来た、観光需要のタクシー業界への取り込みが、クルーズ船のインバウンド需要として少しずつ実現しつつあるのは嬉しい限りだ。

しかし、忘れてはならないのは、こうした成果は、コロナ禍以前から静岡県タクシー協会清水支部や清水港客船誘致委員会、するが企画観光局、地元インバウンド向け旅行会社の地道な取り組みとノウハウの蓄積があったからこそのものであり、その上で、コロナ禍後のインバウンド需要の盛り上がりに対応する体制が出来つつあるのだと思う。

クルーズ船の清水港寄港の戦略的意味!

 昨年3月3日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、来年の令和7年を目標に訪日クルーズ旅客250万人、寄港回数2000回、寄港港湾数100港の実現がうたわれている。これらの数字は、概ねコロナ禍前のピーク数に近いものであるが、寄港港湾数が17港から100港に拡大されており、港湾間の競合も起きてくると思われる。そこで清水港の持つクルーズ船寄港の戦略的意味を考えてみたい。
 静岡市清水港にある清水港は、クルーズ船寄港地として非常に人気が高いと聞く。何と言っても入港時に世界的ブランド力を持つ富士山を駿河湾上から真正面に見ることが出来る港湾は、清水港をおいて他に無い。実際、チャータータクシーの受付現場でも、富士山に行きたい、見たいという要望が多い。そこで静岡TaaSがチャーター手配を始めた当初は、観光コースとして定番の日本平、久能山東照宮、三保の松原などの1・5時間から 3・5時間のチャーターを薦めていたが、それら以外にもクルーズ船の利用客の方からインターネットで調べた山梨県忍野村の忍野八海や、 五重塔、富士山、桜の3点シヨットで世界的にも有名になった富士吉田市の新倉山浅間公園、さらには河口湖や芦ノ湖などの遠方に行きたいとの要望があり、長時間のチャーターを手掛けるようになった。
 清水港は、国際拠点港湾のひとつであり、優位な立場にはあるが、陸路の拠点としても東名高速道路や新東名高速道路、中部横断自動車道などを駆使することで、改めて単に静岡市の枠内で考えるのではなく、静岡県、山梨県、神奈川県の広域で観光コ ースを醸成すべきものと知らされた。
 さらに雨天や曇天など、富士山が見えない時に如何に利用客に満足してもらえる観光コースやアクティビティを用意できるかが、チャーター利用を増やすための決定的に重要な課題である。

 清水港の持つ戦略的価値を活かすためには、静岡TaaSとして、クルーズ船利用客の様々な要望に的確に答え、観光コースをスピーディーに醸成し、それらをタクシー乗務員にしっかりと実施してもらえる体制の構築とノウハウの習得が必要だと痛感している。

新たに見えてきた課題

 前月のコラムでは、清水港日の出埠頭でのタクシーチャーター手配を実施する中で見えてきた課題として①配車の順番②待ち時間の提示③自家用車活用事業の先鞭――の3点を挙げたが、③については地元タクシー事業者の協力の下で徐々に進めて行きたいと思う。
 静岡TaaSとしてのより本質的な課題は、利用者の要望を的確に聞き取る英語力を含めたコミュニケーション能力、そして清水港を起点とした富士山周辺地域の観光スポットの現地調査に基づく、観光コースの柔軟な提案と正確なチャーター時間の設定、乗務員に確実に運行してもらうための情報提供、ツールの作成、さらに天候不順や強風などによるブースの不出店や乗客の少ないクル ーズ船への未対応などだ。これらの課題の解決のためにも、観光庁の補助金事業にチャレンジしてみたい。

「クルーズ等訪日旅客の受入促進事業」への応募

 昨年の6月にも観光庁の補助金事業に「静岡発観光特化型サブジョブドライバー育成事業」という企画で応募したが、残念ながら不採択という結果となった。それに懲りずに、今年も「クルーズ等訪日旅客受入促進事業」として応募したい。

骨子としては、
①清水港を起点とした広域観光地ネットワークを作り、乗客数、顧客の層、クルーズ船の寄港経路、国籍などに応じたフレキシブルな広域観光コースを醸成し、臨機応変に手配、受注ができるようにする
②タクシー乗務員に接客マナー、地図アプリの活用、通訳アプリ、観光コースマニュアルなどの研修を行い、広域運行とおもてなしの能力を高める
③雨天や強風に弱い現在のテント式受付ブースを、キッチンカー形式の移動可能なオフィスカーの受付ブースに変更し、安定した手配受付業務を可能にする。


 2026年には、日の出埠頭に同時に2隻の大型ク ルーズ船が着岸可能となる。 明らかにクルーズ船客は増え、現場でのチャーター客も増加する。こうした局面で機会損失につながらないよう、 質、量、仕組みの面で早急に体制を整えて行かねばならないと思う。それが静岡市タクシー業界の営収の底上げとなり、ひいては静岡市全体の経済、文化面での活性化に繋がればと思う。
(2024年5月28日記)


清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。

アメーバブログを始めました!
http://ameblo.jp/ykiyono800

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。