静岡TaaSは何処まで来たか? II
静岡TaaS設立からの生い立ち
2022年11月のコラム第143回で、今回と同様のテーマで静岡TaaSの振り返りをしたことがある。 静岡TaaSが何を目指して出発し、何処まで来ているのかを時に振り返ることが必要だと思う。
静岡TaaSは5月の決算で、この6月から4期目に入った。ただし、決算報告書の期数でいうと8期目になる。何故かというと、一般社団法人静岡TaaSとしては2021年の5月からだが、その前身は、東京ハイヤー・タクシー協会による共通配車アプリ「スマホdeタッくん」のサービスを勝手連的に全国に普及しようと2016年に「スマホdeタッくん全国普及促進協会」として都内で発足した組織だからだ。
しかし、東タク協の「スマホdeタッくん」自体がそのサービスを終了したことから、2018年には、当時も今もタクシー業界の大きな課題である乗務員不足解消のために「海外ハイタク人材就業促進協会」として組織の衣替えを行った。
特定技能制度の拡充で、N3の日本語力があれば特定技能1号として外国人でも タクシー乗務員としての就労が可能となったが、当時は日系三世などの特殊な条件でないと就労資格を得られず、「海外ハイタク人材就業促進協会」としての取組も、確たる結果を得られずに終わった。
いずれにせよ、これらの取組は、タクシー業界の周辺において、業界のために何らかの役に立てないか、との思いからの試行錯誤であった。
現在の静岡TaaSは、そうした流れを受けて、私のタクシー乗務員の経験、そしてタクシー専門ソフトハウスのシステムオリジン、タクシーサイト、タクシーアシスト、DiDiモビリティジャパンなどとの関りの中で、タクシー事業の根本的な課題である時間当たりの生産性の向上を図るための仕組みを作れないかとの思いで、システムオリジンの海野知之社長、東海電子の杉本哲也社長の協力を得ながら設立したものである。
静岡市の地域全体最適配車プラットフォームを目指す!
この標語は聞き飽きたと言われそうだが、しかし、如何に現実の静岡TaaSの実態とこの目標がかけ離れていようと、IOT、ビッグデータ、AIを活用した地域全体最適配車プラットフォ ームを実現することによって、移動需要の創出と供給の効率的マッチングにより、実車時間率、実働時間率を向上させ、タクシーを基軸とする移動産業の生産性を向上させるという静岡TaaSの基本構想は変わらない。
ただ、この構想の実現が富士山の頂きとするならば、現実は3合目あたりを喘ぎながら登っている段階だと思う。しかし、この3年間の我々の実践と最近の業界を取り巻く大きな環境の変化が、一気に私たちを5号目あたりまで押し上げてくれるのではないかと思う。
共同配車の試みの現状
地域全体最適配車の為には、地域におけるタクシーの共同配車化が必須である。しかし、一気にそこに行くには課題が多いので、静岡TaaSでは各社の配車業務の受託という形でスタートした。
現在は、静岡市内のタクシー2社の配車業務を受託しているが、点呼業務が出庫・帰庫ともロボットで可能となり、あるいは静岡TaaSなどの外部事業者による点呼業務の受託が可能になれば、各社の配車業務委託は一気に進むと思われる。また、業務委託という形ではなく、それぞれの配車センターをネット上で繋ぐことによる共同配車化も可能である。
その意味では、現在、静岡県タクシー協会静岡支部(清 水支部も含む)で検討されている、地域独自の共同配車アプリの採用は、静岡市全体の共同配車化を一気に前進させると思われる。まさに地域全体最適配車が可能となり、 利用客の利便性が向上し、事業者側全体での機会損失が減り、生産性の向上に寄与すると思う。
地域共同配車アプリのベンダーの選定作業が静タ協静岡支部において進められているが、静岡TaaSとしては、既に実績のある利用者アプリ「タク呼び」、そのLINE版、ホテルや商業施設などに設置する固定型配車アプリ「こゆび」などを駆使して、静岡市における利用者アプリの普及に、プロモーション費用の提供なども含めて全力を尽くしたいと思う。
移動需要創造の試みの現状
一方で、タクシーの生産性を上げるためには需要、とりわけ昼間の閑散時間帯での需要の創造が必要不可欠だ。
静岡TaaSとして、そのために2022年7月から2023年の6月まで、1年間に渡って行った定額でのサブスクリプションサービス『タク放題』、および2023年1月から6カ月間、静岡MaaSからの委託事業として『のりあい放題』の実証実験を行った。
結果は、朝10時から夕方5時までの閑散時間帯におけるタクシーの借上げという形で一定の需要創造には貢献したと思うが、一方で、利用客の開拓と運営の効率性の両面で課題が残り、持続的なビジネスモデルとして確立できなかった。
しかし、この活動の教訓を活かせば、十分にこのサブスク分野でも需要の創造が可能だと思われる。
この辺の経過と総括については、このコラムの第151回を参照して頂ければと思う。
そして、新たな関散時間帯での需要創造としてチャレンジしているのが、 清水港に寄港するクルーズ船客のタクシーチャーター需要の開拓である。
昨年10月から、静夕協清水支部の要請もあって始めた清水港の埠頭現場でのチャータータクシーの手配が、意外にも静岡市内の短時間のチャーターだけでなく、富士山観光としての富士宮や山梨県への長時間チャーターのニーズがあることが分かり、外国人とのコミュニケーション能力を配車現場のスタッフと乗務員が、 ともに深めていくことにより、需要の拡大が可能である。
今年度、清水港には外国の大型クルーズ船が100隻近く寄港し、また来年度にはクルーズ船が2隻同時に着岸出来るようになり、さらなる寄港隻数の増加が期待されている。
また、クルーズ船のみならず、拡大するインバウンド需要をタクシー業界が積極的に取り込んでいく必要があり、旅行会社としての静岡TaaSの果たすべき役割も大きく問われると思う。埠頭の現場での手配のみならず、最近人気の体験型パック旅行を企画し、英語ガイドやタクシー事業者との連携を深め、予約型のタクシーチャーターを増やし、安定した需要に繋げて行きたいと思う。
(2024年6月23日記)
清野 吉光(きよの よしみつ) 略歴
1950年 長野県四賀村生まれ、印刷関係など様々な職業に従事。1976年 清水市の日の丸交通入社。1980年 静岡市内の事務機器センターに入社。1982年 システムオリジンを仲間と創業、専務取締役。1992年代表取締役社長就任。2016年3月 システムオリジン社長退任。クリアフィールド取締役。2021年3月 システムオリジン戦略企画担当取締役に就任。2021年5月 一般社団法人静岡TaaS代表理事に就任。
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